金正恩氏が忘れられない「東京ディズニーランド」の思い出

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北朝鮮の音楽公演に世界中で大人気の米国のアニメキャラクターが登場した。

北朝鮮国営の朝鮮中央テレビは3日、万寿台(マンスデ)芸術団の三池淵(サムジヨン)楽団の新春公演の様子を放送。公演では、北朝鮮が敵国とする米国ウォルト・ディズニーのキャラクターが大挙登場した。

女子大生を拷問

ディズニーに限らず、北朝鮮がいくら敵国であろうと米国の娯楽文化を楽しむことになんら問題はない。むしろ米国だけでなく世界の文化を開放的にどんどん楽しむべきだ。

ただし、金正恩体制は一般庶民が海外の娯楽文化を楽しむことを厳しく統制している。それは、韓流ドラマのファイルを保有していたという容疑だけで、女子大生を拘束し過酷な拷問を加えたことからも明らかだ。

金正恩氏は2014年の新年の辞でも「われわれの制度をむしばむ異質な思想と退廃的な風潮を一掃するたたかいを強力に繰り広げて、敵の思想的・文化的浸透策動を断固粉砕しなければなりません」と強調。「退廃的な風潮」と「敵の文化」とは、米韓をはじめとする資本主義国家の文化のことだ。

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それでも、北朝鮮社会では韓流、そしてディズニーはこっそりと広く浸透している。なによりも建前で資本主義文化を目の敵にしている金正恩氏自らが靴下工場を現地指導した際、ディズニーを代表する「くまのプーさん」、そして日本のキャラクターである「キティちゃん」に言及したこともある。さらに、別の現地指導では日本の国民的アニメのキャラクターと一緒に写った写真さえ公開している。

今回の公演では、中盤の「世界アニメ映画音楽配信」というコーナーのアニメ挿入歌のメドレーで、「ミッキーマウス」「白雪姫」「美女と野獣」「ライオンキング」「カンフーパンダ」などの挿入歌が演奏された。ちなみに、この中では自他共に認める北朝鮮の名作アニメ「かしこいタヌキ」も演奏された。舞台のバックスクリーンには当該アニメのダイジェストシーンが流れ、テロップではタイトルも紹介されている。

日本のアニメも

この公演だけでなく金正恩氏時代になってから北朝鮮の音楽公演でディズニーキャラクターが頻繁に登場するようになったが、どうやら正恩氏はディズニーが大好きなようだ。それもそうだろう。実は正恩氏は91年に兄の正哲(ジョンチョル)氏とみられる男性とともに南米の偽造旅券で訪日し、東京ディズニーランドを訪問したとされているのだ。正恩氏は東京ディズニーランドで体験した楽しい思い出を忘れられないのだろう。

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ただし、ここで1つ問題が出てくる。果たして「北朝鮮はミッキーマウスなどの使用許可を得ているのか」という問題だ。ディズニー社は自社のキャラクターの使用に関しては極めて厳しい姿勢を取ることで知られているからだ。韓国メディアによると、ディズニー社は「北朝鮮でミッキーマウスをはじめとするキャラクターの使用許可を要求されたことがない」と述べているという。つまり著作権などを無視した国家ぐるみの無断使用だ。

今回の公演に限らず、北朝鮮のあちこちでミッキーマウスなどのディズニーアニメキャラを見かけることは決して珍しくはない。それどころか、8月に韓国に亡命したことが明らかになった元駐英公使のテ・ヨンホ氏の子息は日本のアニメに親しんでいたというぐらい米韓や外国文化は北朝鮮社会に浸透しているのだ。

そこで1つ提案したい。北朝鮮当局に対して、たとえば核査察ではなくいっそのことディズニー社も巻き込んで文化著作権査察のようなものを進めたらどうだろうか。この過程で、金正恩体制の人権弾圧ともいえる文化統制と、海外文化に対する欺まん的な施策をあぶり出せる。そして、一般庶民が公に海外の娯楽文化を楽しめる環境をつくるのだ。

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また突拍子もない提案だが、今日本でも話題の「この世界の片隅に」を北朝鮮で上映するものいいかもしれない。物資が不足し統制が強まる第二次世界大戦中の日本で、けなげにささやかな生活を送るヒロインや周囲の庶民の姿に、北朝鮮の多くの人々が自分たちの境遇と重ね合わせて涙するに違いない。政治ではなくカルチャーによる「宥和政策」なら北朝鮮庶民も周辺国も大歓迎だろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記