金正恩氏が「女子高生を公開裁判」にかけた本当の理由

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韓国の聯合ニュースによれば、ソウル市内の某所で19日、8月に韓国に亡命したことが明らかになった北朝鮮のテ・ヨンホ前駐英公使と、国会情報委員会のイ・チョル委員長と与野党幹事らによる懇談会が行われた。懇談会の場は、国家情報院が準備した。

「ドラゴンボール」のファン

懇談会後、イ委員長が記者団に明らかにしたところでは、テ氏はその席上、「長期間の海外生活を通じ、韓国のドラマや映画などを見て、韓国の民主化や発展ぶりを体感するようになった」と話したという。

北朝鮮で、当局の監視の目をくぐって流通する韓流ドラマや外国の映画が、国民の意識に大きな影響をもたらしていることは良く知られている。しかし、テ氏ほど高位にあった人物が、このようにハッキリと、韓流エンタテインメントの影響力の強さについて語ったのは初めてではないだろうか。

北朝鮮情勢を概観するなら、米国のオバマ政権の戦略的忍耐も、韓国や日本による制裁や圧迫も、北朝鮮国内にこれといった変化を呼び起こせずにいる。それに比べ、人間の本能に訴えるエンタテインメントの何と強力なことだろうか。

金正恩体制は、韓流ドラマや外国の映画を見たというだけで女子高校生を公開裁判にかけたり、女子大生を拷問して死に至らしめたりしているが、それほどムキになって取り締まりをしなければならない理由が、ここにあったというわけだ。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

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英国メディアによれば、テ氏の次男のグムヒョクさん(19)は名門大学への進学が決まっていた秀才とのことだが、彼にはほかにも、祖国・北朝鮮のイメージとはかけ離れた横顔があったようだ。

好きなアニメは「ドラゴンボールGT」で、趣味はゲームとネットサーフィン。13歳の頃からフェイスブックに親しんでいたという。テ氏はそんな様子を見守りながら、本国からの帰国命令に従った場合の息子の運命を考えたとき、背筋に冷たいものを感じたのではないだろうか。

北朝鮮当局も、外国製アニメに関しては今まで特段の措置を取って来なかったが、最近になってついに取り締まりを始めたようだ。標的になっているのは、たとえば米国のアニメ「ザ・シンプソンズ」。理由は、どうやら故金正日総書記氏を小馬鹿にした場面があるかららしく、見た人は銃殺を含めた重罪に処せられる危険性もある。

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グムヒョクさんがファンだというドラゴンボールGTが、そこまで厳しい取り締まりの対象になるかどうかはわからないが、ともかく、金正恩体制はアニメに対しても警戒を募らせ始めたということだ。

これは言い方を逆にするなら、韓流に限らず、様々なエンタテインメント作品が北朝鮮の人々に好まれ得るということを物語っている。主として韓流作品が流通しているのは、北朝鮮と言語が同じであることが最大の理由だろう。

ならば日本政府は、北朝鮮の変化を促す策のひとつとして、日本のエンタテインメント作品にハングルで字幕を付けたり、吹替版を作ったりすることを考えてみてはどうだろうか。

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何も、それで金正恩体制をどうにかしようとまで考える必要はない。ただ、いずれ北朝鮮に変化が訪れたとき、かの国の人々と日本人との間で語り合える、共通の話題は多いほど良いだろう。その時のための種まきをしておくことも、重要な安保政策になり得るのではないだろうか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記