金正恩氏の「劣等感」に殺される人々….またもや恐怖政治の嵐か

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北朝鮮の金正恩党委員長が、またもや恐怖政治の刃を振り回しそうな気配だ。

大増産運動「200日戦闘」の一環として行われた水害復旧で、不正を働いた疑いを持たれている幹部らが処刑されるというのだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

人間をミンチに

朝鮮中央通信は19日、200日戦闘が今月15日に「勝利のうちに終了した」と公式に宣言した。それに伴い、運動の中で表れたネガティブな事象を点検する「総和(総括)」の準備が大々的に行われているが、水害復旧にからみ不正を働いたとして、少なくとも幹部3人が逮捕されている。そして彼ら3人は、「総和」の最終場面で銃殺される可能性が高いという。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、3人のうち2人は、道人民委員会(道庁)の幹部たち。被災地の復興事業用のセメント32トンを横流しした容疑で逮捕された。

また、道内の別の情報筋によれば、もうひとりの逮捕者は朝鮮人民軍のある部隊の軍官(将校)。この部隊が建設を行なった被災者向け住宅の天井が崩落する事故が続発し、原因を調べたところ、セメントと砂の混合比率が守られていなかったことが判明したという。

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しかし果たして、これが銃殺に値するほどの重罪だろうか。セメント32トンと言えば、大型トラック3台分である。北朝鮮には、これよりよほど大胆な横流しがいくらでも存在する。また、住宅建設の専門家でもない将校が、「1日も早く建設せよ」と上層部から急かされる中、資材の扱いを間違えるのは想定できるリスクだ。むしろ、彼らにそんな仕事を強いる政策の方が間違っているとも言える。

情報筋によれば、現地の人々の間からも同様の声が上がっているという。

それでも、3人の命が助かる見込みはほんとんどない。その理由は、金正恩党委員長が200日戦闘の総和を「戦時総和」に指定し、発見された不正について軍法をもって裁くと宣言したからだ、とRFAは解説している。

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しかしそもそも、増産運動や災害復旧事業に対し、どうして軍法を適用する必要があるのか。正恩氏はもしかしたら、「銃殺ありき」でことを進めようとしているのではないか。正恩氏が、幹部のちょっとしたミスをあげつらい、人間をミンチにしてしまうような方法で処刑してきたことは周知のとおりだ。

その目的は、「俺はいつでも、お前たちの運命を左右することができる」のだと、国民に知らしめることにあると思われる。

そしてその裏には、若年であるがゆえに周囲から「バカにされているのではないか」と心配してしまう、ある種の劣等感があるようだ。実際に今回の件でも、逮捕された将校については「最高司令部の命令に従わず、最高司令官金正恩同志の権威に傷をつけた」ことが罪になると見られている。国家や社会に対した害を与えていなくとも、正恩氏の顔に泥を塗ったら殺されるというわけだ。

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正恩氏は最近、「公開処刑を禁止する」との指示を下したとの情報もあるが、それはやはり、単に「処刑を公開はしない」ということに過ぎないようだ。正恩氏は、恐怖政治そのものを止めるつもりはないのである。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記