金正恩党委員長が、韓国大統領府(青瓦台)の襲撃を想定した特殊作戦をアピールしている。11日付の北朝鮮の朝鮮中央通信は、金正恩氏が朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の「第525軍部隊直属特殊作戦大隊」の戦闘訓練を指導したことを報じた。
実は金正恩氏は先月にも同部隊を視察した。その時、北朝鮮国営メディアは同部隊について「青瓦台とかいらい政府、軍部要職に居座って千秋に許せない希代の大逆罪を犯している人間のくずを除去することを基本戦闘任務にしている」と紹介した。
地雷爆発で吹き飛ぶ韓国軍兵士
北朝鮮国営メディアは、今回の訓練について「延坪島の火の海を青瓦台の火の海へと続かせ、南朝鮮かいらいどもを滅亡の奈落に永遠に叩き落とす」としながら朴槿恵政権をターゲットにしたと明らかにしている。言い替えれば「朴槿恵暗殺作戦」だ。それを裏付けるのが北朝鮮国営メディアが配信した下の写真だ。
襲撃対象の建物は、明らかに韓国の青瓦台を想定して建てられたものだ。正恩氏は特殊部隊が青瓦台を襲撃するシミュレーション訓練を行い、その様子を隠すことなく公開したのだ。
金正恩氏が、朴槿恵政権に対してここまで露骨に威嚇する裏には、この1年間以上、辛酸を嘗めさせられた米韓に対する反撃の意図があると見られる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ことのはじまりは昨年8月に起きた軍事境界線付近における地雷爆発事件だ。当時、朴槿恵政権は自国兵士が地雷で吹き飛ばされる映像を公開してまで北朝鮮に圧力をかけた。結果的に、北朝鮮側は「遺憾」の意を表明、事実上の謝罪に追い込まれた。
(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士…北朝鮮の地雷が爆発する瞬間)さらに米韓は正恩氏をターゲットにした「斬首作戦」を導入するなど、たたみかけるように心理的圧力を加えた。北朝鮮対米韓という構図では劣勢を強いられた正恩氏は1月と9月の核実験、また中距離弾道ミサイルの発射実験を強行し、必死で抵抗を試みながら反撃の機会を虎視眈々と狙っていたに違いない。
そして、韓国で崔順実ゲートをめぐり朴大統領が窮地に陥り、米大統領選でドナルド・トランプ氏が当選した直後から、金正恩氏の軍関係の活動が増え始める。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面11月に南北軍事境界線に近接するカルリ島と長在島(チャンジェド)の防御隊を視察した際には、わざわざゴムボートに乗る姿を公開した。この写真には偽造説も囁かれているが、視察では「延坪島火力打撃計画戦闘文書」を承認するなど、極めて好戦姿勢を強めている。
つまり、金正恩氏は米韓の対北朝鮮政策に空白が生じているこのタイミングで劣勢から攻勢へ転じようとしているのだ。
韓国は、朴大統領に対する弾劾訴追案が可決したことで、国政が機能不全に陥っている。一方、ドナルド・トランプ次期米大統領は、「核で武装した北朝鮮が韓国や日本と戦争を起こしたとするなら恐ろしいことになるが、彼らが戦争をするなら、彼らがするのが当然」と述べている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面金正恩氏は、こうした状況を見据えて青瓦台襲撃作戦を公開しながら、米韓、とりわけ朴大統領に対して威嚇姿勢を強めているのだ。
一方、韓国の聯合ニュースによると、弾劾訴追案が可決され職務停止となった朴大統領は正恩氏が標的とする青瓦台で読書をして過ごしたという。北朝鮮は今から約半世紀前の1968年、朴槿恵氏の父親である朴正熙元大統領の暗殺を狙って青瓦台を襲撃した。俗に言う青瓦台襲撃未遂事件である。
歴史は繰り返すというが、朴槿恵大統領は父と同じく北朝鮮の暗殺対象になってしまったのだ。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。