そのような主張に、耳を貸す人は少ない。しかし、彼女たちのうちの1人でも北朝鮮に帰国させ、「私は韓国当局に拉致されました」と証言させることが出来れば、集団脱北から受けたダメージを少なからず相殺できるかもしれない。
しかしそれで、体制に空いた穴を埋めようというのは無理な話だ。7月に家族とともに亡命したは太永浩(テ・ヨンホ)元駐英公使にしても、10年にわたって英国に在住する中で、子どもたちが日本アニメのファンになるなど資本主義の文化に馴染んでしまい、帰国したら生死かかわるたいへんな問題に直面しかねないというリスクを感じていたはずだ。
(参考記事:亡命した北朝鮮外交官、「ドラゴンボール」ファンの次男を待っていた「地獄」)北朝鮮が近代国家として存続することを望む以上、外国と接点を持ち、海外に人材を派遣することは避けられない。今後も発生ペースの波はあろうとも、金正恩氏にとってショッキングな脱北ニュースはなくなることはないだろう。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。