12月1日、韓国・ソウルで開催された「北朝鮮麻薬類問題セミナー」で、衝撃的な情報が飛び出した。
「北朝鮮麻薬類監視機構」のイ・グァンヒョン研究員はこの日の発表で、「少なくとも30%以上の北朝鮮住民がメタンフェタミン(覚せい剤)やアヘンなどの薬物を使用していると見ていいだろう」と述べた。
公開処刑も効かず
さらに、北朝鮮では快楽を得るためだけでなく、病気治療に有効であると思い込み、日常的に薬物を使用しているとの証言や、青少年、さらには6歳の幼稚園児までが薬物を使用する様子を見たという証言もあると明らかにしたのだ。
脱北者からの聞き取りを通じて、北朝鮮住民の薬物汚染の実態を調査しているイ研究員は、「北朝鮮住民にとって薬物は『日常』『文化』になってしまった。誰でも薬物に簡単にアクセスできる構造的環境がある」と分析している。
覚せい剤など違法薬物の密造・密売には、金正恩党委員長も頭を痛めている模様だ。密売人を公開処刑するなどして乱用の撲滅を目指しているが、まったく効果が表れていない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面また、前述したセミナーでヤン・オクキョン梨花女子大学社会福祉学科教授は「北朝鮮の国家機関によって生産、流通された薬物が、1990年代以降は徐々に国内に拡散して、住民の身体的、精神的健康に深刻な脅威となったと見られる」と述べた。
ヤン教授によると、最近脱北した人ほど薬物に接触(生産・販売・密輸を除く)した経験が多く、北朝鮮住民の薬物使用の実情を認識しているという。「薬物に接触した経験」については、1990年代は脱北者の4.7%だったが、2013年には26.8%、2014年には25.0%、2015年には36.7%と、増加傾向を示したという。
セミナーの発表者らは、韓国はもちろん、中国、ロシアなど周辺国が協力して、北朝鮮国内の薬物汚染問題の解決に努力すべき時期に来ていると強調した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面確かに、その通りである。1990年代から2000年代の初めまで、北朝鮮の国家機関が製造した覚せい剤が、外貨獲得の手段として大量に日本に密輸されていたのは周知の事実だ。その後の取り締まり強化を受けて対日密輸は行われなくなったが、最近では、フィリピン国内で北朝鮮製の覚せい剤が流通しているとの情報もある。
乱造される薬物が、いつまた日本に入ってこないとも限らない。また、何も知らず違法薬物の害毒にさらされている北朝鮮の人々を救済する見地からも、この問題についてより活発な議論が必要だと思う。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。