金正恩党委員長が、恐喝まがいの手段で女性から収奪しようとしている。北朝鮮では21日に女性団体である朝鮮民主女性同盟(女盟)の第6回大会が33年ぶりに行われた。今大会では「社会主義女性同盟」と改称された。女盟は満31歳から55歳までの一般女性を加入対象とし、そのなかには働く主婦も含まれる。
国際社会が北朝鮮の人権侵害に対して非難を強めるなか、金正恩氏が33年ぶりの女盟大会を開いたのは「女性の地位や人権に配慮している」ということをアピールする狙いがあると見られる。人権侵害のなかでも、とりわけ女性に対する人権侵害は、当事者らの告発などにより実態が明るみにでつつあるからだ。
女性虐待収容所に喜び組
米国の人権団体「北朝鮮人権委員会」(HRNK)は、中朝国境地域の咸鏡北道(ハムギョンブクト)にある全巨里(チョンゴリ)教化所において女性収容施設が拡張されていることを暴露した。強制労働、拷問、劣悪な環境で、国際社会の激しい批判を浴びている北朝鮮の拘禁施設で、女性虐待が日常化している実態が、元収容者や関係者の告発により明らかにされるのは大きな意味があり、国際社会を動かしつつある。
また、北朝鮮には「5課」という権力層に仕える集団を選抜し管理するセクションがある。これに選ばれた女性達は「5課処女」と言われ、一生涯を指導層のために捧げなければならない。いわば体制の慰み者であり、女性に対する人権侵害の象徴ともいえるシステムだ。
(注)韓国語(朝鮮語)で「処女」とは、未婚女性や若い女性の総称
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面こうした女性差別が明るみに出る中、北朝鮮国営メディアの朝鮮中央通信は「女性の地位が段違いの北と南の現実(11月15日付)」という記事を通じて、韓国における女性の地位が低いと指摘。北朝鮮で女性の地位がいかに高くて優遇されているのかを強調した。もちろん、現実は先述のとおり悲惨きわまりない。
そうした意味で、今回の大会は国際社会の圧力に対する反論、そして国内女性に対する配慮を示す狙いがあるようだ。金正恩氏は大会参加者と記念撮影を行うなど、いかにも女性たちを大切にしているかのような姿勢を見せた。
妻が夫に死の復讐
その一方で、やはりと言うべきか北朝鮮当局は、大会を利用して恐喝まがいの行為で女性の家計を狙い撃ちにしていた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面デイリーNKの両江道(リャンガンド)の情報筋によると、「大会前、参加する各地方の女性同盟員委員長に『旅費を用意しなさい』という指示が下った。さらに、末端団体や個人には5000ウォンから1万ウォンの上納金を出せと強要した」
北朝鮮で、大会や行事がある際、庶民がその費用を負担させられることは日常茶飯事だ。当局が行事の運営費を準備できず、庶民から収奪することによって工面する。通常の上納金集めも半ば強制的だが、特に今回は恐喝のような圧力があったという。たとえば「家計が苦しいから出せない」と言う女性たちに対して、次のように言う。
「市場で商売できなくなるよ。そうなれば不利益があるだろうね」
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮の市場では、基本的に女性しか商売できない。薄給しかもらえない企業所(会社)に務める男性より女性の方が圧倒的に経済力も生活力もある。彼女たちは市場の原動力であり、かつ家庭の大黒柱だ。市場で商売できないことは生命線が絶たれることに等しく、当局の圧力は脅迫といっても過言ではない。さらに、大会に参加するとなればその間の商売はできず大打撃となる。
旅費や滞在費を工面して大会に参加したとしても、もらえるのは金正恩氏との記念写真。男性と違い、社会的名誉よりも現実生活を優先する女性たちにとっては、飯の種にもならない。金正恩氏からすれば「一緒に写真を撮ってやるから、大会の参加費ぐらいは出しなさい」ぐらいの軽い気持ちかもしれないが、糊口を凌ぐ女性たちからすれば「バカにするな!」といったところだろう。
現地の情報筋も「市場生活を通じて家計の大黒柱である女性たちの忠誠心を育むことは無理だ」と述べる。
北朝鮮の女性たちは、もはや家族単位を超越して国家経済の大黒柱となりつつある。その彼女たちをないがしろにしていると、いつか思わぬ形で復讐されるかもしれないことを正恩氏は肝に銘じた方がいい。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。