金正恩vsトランプ「史上最低」の罵倒合戦が幕を開ける

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アメリカ大統領選は、大方の予想を裏切って共和党のドナルド・トランプ氏が勝利した。一般的に対北朝鮮政策においては、民主党以上に強硬路線を貫いてきた共和党政権に移行することで北朝鮮にとって都合が悪いと思われがちだが、必ずしもそうではないことは既に本欄で述べた。

「トイレ」にストレス

トランプ氏がどういった対北朝鮮政策を打ち出すかにもよるが、少なくとも金正恩氏は一息つくことができるだろう。なにしろこの1年間、正恩氏は米韓の軍事的圧力、心理的圧力に怯えまくっていたふしが見られるからだ。

昨年8月、南北軍事境界線で北朝鮮が埋めたとされる木箱地雷が爆発し、韓国人兵士2人が重傷を負う事件が発生。南北は激しく対立したが、北朝鮮側が「遺憾」の意を表明して事実上、謝罪。その後、米韓はたたみかけるように北朝鮮の首脳部、すなわち金正恩氏を対象とした「斬首作戦」を導入して正恩氏に圧力を加えてきた。

こうしたプレッシャーに金正恩氏は戦々恐々としていただろう。なんといっても正恩氏は、1984年生まれの32歳にすぎない。北朝鮮国内においては誰も逆らえない絶対的な独裁者だが、一般人と同じトイレを使用できないなど、多大なストレスを抱え精神的にキツい状況に置かれているという。

(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳

1年間に2度の核実験や度重なるミサイル発射実験は、米韓、とりわけ米国に対する金正恩氏の恐怖心の裏返しだったのかもしれない。

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こうしたなか、オバマ氏の対北朝鮮政策を維持するであろうヒラリー・クリントン氏が敗北して、今後の政策が見直される可能性が出てきた。さらに、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領は知人女性が国政に介入した疑惑、いわゆる崔順実ゲートで窮地に陥っている。

金正恩氏にとって決して悪くない成り行きだ。しかし、この状況が続くわけでもないだろう。

繰り返すが、日米韓の軍事面におけるつながりはかつてないほど強固だ。ネガティブな報道がされがちの日韓関係も軍事面では必ずしもそうではない。今月に入って、日韓両政府は4年前に中止となった「軍事情報保護協定(GSOMIA)」の早期締結に向けて2度も協議を行った。

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協議再開について稲田朋美防衛相は、「北朝鮮の核・ミサイル問題への対応のため、日韓の情報交換をより円滑、迅速に行うことは大変意義がある」と述べるなど、対北朝鮮を念頭に置いた軍事関係であることを明言している。

オバマ氏にヘイトスピーチ

そして、日韓の対北朝鮮政策より気になるのがトランプ氏の「暴言癖」だ。

昨年、トランプ氏はラジオ番組で「(金正恩は)頭がおかしい。頭がおかしいか天才か、どちらかだ。父親(金正日)よりも不安定だ」と話したという。

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今から14年前の2002年、当時のブッシュ大統領が北朝鮮の金正日体制を「悪の枢軸」と呼び、米朝の緊張関係が高まったことを思い起こしてほしい。トランプ氏が大統領候補ではなく、今度は現役大統領として金正恩氏、そして北朝鮮を「悪の枢軸」以上の表現で非難し、それがきっかけとなって米朝関係が極度に緊張することは十分に考えられる。

仮にトランプ氏がいつもの調子で金正恩氏を非難、罵倒すればどうなるのだろうか。北朝鮮は、まずは公式メディアを通じ、口を極めてトランプ氏を非難し始めるだろう。北朝鮮が本気になって非難を始めれば、例え一国の国家元首といえども、ここで引用するのもはばかられるほどの口汚い罵詈雑言を浴びあせかける。

たとえば、オバマ米大統領に対しては「ヘイトスピーチ」さながらの表現で罵倒しつくしてきた。また、朴大統領に対しては「ずるがしこい売春婦」。日本の安倍晋三氏に対しては「精神病者」など、例を挙げるときりがない。

こうした罵倒合戦にトランプ氏が引きずり込まれれば、米朝関係は一挙に最悪の事態に陥る可能性もある。たかが口喧嘩かもしれない。しかし、フィリピンのドゥテルテ大統領がオバマ氏をののしって両国の関係が悪化した例もある。金正恩氏とトランプ氏では、米国とフィリピン以上の対立関係に陥る可能性が高い。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記