韓国紙・東亜日報(電子版)が7日付で報じたところでは、韓国政府が近く発表する予定の独自の対北朝鮮制裁措置のリストに、金正恩党委員長の実妹である金与正(キム・ヨジョン)氏が含まれる見込みだという。行為の与党関係者の話として伝えた。
実現すれば、韓国政府が金氏一家の一員を制裁指定する初の例となる。韓国政府はこれまで、いずれ対話の相手となる可能性を考慮し、金氏一家を制裁指定することを避けてきた。今回も、正恩氏がリストに含まれるかどうかは不透明だ。
同級生が大量失踪
与正氏を制裁指定すべきとの声は、韓国のみならず米国からも上がっていた。例えば今年6月、国連北朝鮮人権事務所(ソウル)の開設1周年を記念して開かれたシンポジウムで、米国のNGO「北朝鮮人権委員会」のグレッグ・スカラチュー事務総長が、与正氏を制裁指定すべきだと主張している。
その理由は主に、与正氏の役職のためだ。北朝鮮の内部情報筋によれば、与正氏は2012年2月に朝鮮労働党中央委員会の宣伝扇動部で政治行事を担当する1課長に任命され、2014年10月には同副部長に昇格したという。副部長と言えば、日本の中央省庁の審議官から事務次官級に相当する高級官僚だ。
また、宣伝扇動部は、国民の思想や情報の統制を司る部署だ。北朝鮮で外部の情報に触れた人々が、拷問や銃殺を含む厳しい処罰を受けているのは、周知のとおりである。
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与正氏は、思想や情報統制ではなく行事の準備・進行を担当しているとも言われるが、正恩氏の妹で副部長ともなれば、「知らない」では通らない。
与正氏は、正恩氏の現地指導に頻繁に同行していることで知られる。労働新聞の写真などを見ると、いつも明るい笑顔を浮かべており、いかにも仲の良さそうな兄妹だ。また、その自然体の表情は、「話の通じる人物なのではないか」との期待を、一部の北朝鮮ウォッチャーに抱かせていたりもする。
とはいえ彼女が、北朝鮮において「普通の人」でないのは確かだ。昨年5月には、彼女の学生時代の友人らが、些細な言動のために「大量失踪」した事件もあった。
「正恩ニセモノ説」と大阪の血統
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面本人もそのことにショックを受けたとの情報もあるが、人権の見地からすれば、それで済まされる話でもない。
いずれにしても、与正氏は正恩氏にとってかけがえのない存在であるはずだ。日本の大阪にルーツがある正恩氏に対しては、北朝鮮幹部らも陰で「ニセモノ説」を囁いていると言われる。
正恩氏が本当に分かり合えるのは、血を分け合った兄妹しかいない。与正氏はおそらく、今後も兄の側近として存在感を強めていくものと思われる。そうなるほどに、彼女に対し「人権侵害の責任を問うべき」とする声は強まらざるを得ないだろう。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。