北朝鮮の老人たちが「自爆」を強要されている。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

北朝鮮のような過酷な社会では、人々は「究極の選択」を迫られることがある。

大量の餓死者が出た1990年代半ばの食糧難の時代、ある国営企業の幹部たちは、違法と知りつつ中国との独自の取引を行った。 そうしなければ、幹部も労働者たちも食べ物を手に入れることができなかったからだ。

女子大生が拷問されて絶望

しかし、当局はその行いを許さず、厳罰で臨んだ。 そして、その理不尽さに納得がいかなかった人々は、あえて抗議の声を上げた。 残忍な国家が、そのような行動を許容しないことを知っていながら。

最近では、やはり当局により違法行為の追及を受けたある女子大生が、自らの命を絶った。

彼女の罪は、海外のドラマを見たという、北朝鮮以外の国では罪になりようもないものだった。 それでも彼女が自分の命を絶ったのは、その後の自分の行く末を案じてのことだった。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

しかし、これらの例はいずれも自分の意志による選択だ。 国家の理不尽さに追い詰められてのことではあっても、それに抗う形で、人間らしい生き方を選んだのだ。

ところが最近の北朝鮮では、貧富の差の広がりなどで世知辛さが増しているためか、 子が親に「究極の選択」を迫る事例が増えているという。 北朝鮮で言うところの、「自爆精神の発揮」を求めているのだ。

老人の「抗議の死」

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、寒さが厳しくなる中、駅や公園の周辺に老人らの姿がよく見られ、この様子に周囲の人々も胸を痛めているという。実はこの老人たち、日中は家に居ることができず、寒くなるまで外で時間をつぶしているのだ。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

庶民が作りだした市場が発展し、それと同時に急速に資本主義化が進む北朝鮮では、どの家庭でも働けて稼ぎがあればあるほど有り難い。逆に言えば、稼ぎがなければ居場所を失う。

代表的なケースは、稼ぎの少ない夫。利益のない国営企業に勤める男性の場合、給料はコメ1キロを買えるか買えないかぐらいの少額だ。とても生計を維持できないため、女性たちは市場で商いに励み、一家の大黒柱として薄給の夫と家族を養う。それにもかかわらず、夫の方は、大して働きもせず、家ではタバコをふかしながらゴロゴロする。酒を飲んではくだをまく。

そして、役に立たない亭主関白の男性に三行半を突きつける──つまり「離婚」を言い渡すケースが増えているのだ。女房に捨てられたバツイチ男性は、給料だけでは食べていけず、やりくりする生活力もないため、「餓死の恐怖」に怯えなければならない。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

今、北朝鮮の老人らはこれと似たような状況に置かれている。

ある家庭では老人の部屋にわざわざ「自爆精神」というスローガンをかけるという。自爆精神とは首領(金日成・正日・正恩)のためには、死も辞さないという意味。すなわち老人に「自殺」することを暗にほのめかしているわけだ。

清津(チョンジン)市のある家庭では、自らの境遇に絶望した老人が家庭全員を巻き添えにした服毒心中事件まで発生。同じく清津市内のある家庭では、思うように身体が動かない老夫婦が庭先の木で首つり自殺を図った。

悲しいことに、老人らの自殺を「自爆精神」と称える声もあるという。しかし、この状況を伝えてきたRFAの情報筋は「まともな高齢者福祉政策をとらない国家に対する『抗議の死』だ」と述べながら、当局への不満を露わにした。まったくもって情報筋の言うとおりだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記