穀物1キロで売られる娘たち…金正恩式「恐怖政治」の農村破壊

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〈春をひさぐ女性が増えたという。農村の若い女性の場合、「トウモロコシ1キロ分が対価」とは、貿易商の説明だ。わいろも横行。外貨稼ぎで海外に派遣される労働者が健康診断で「異常なし」の報告書を書いてもらうには、医師に百ドル、企業所の支配人に200ドル……〉

今年1月、東京新聞が「北朝鮮 核の挑発(1)結束狙う足元、火の車」と題して報じた記事の一節である。

超高利のスパイラル

困窮の果ての売春やワイロは、北朝鮮ではもはや珍しい話ではない。

それにもかかわらず、とくに「トウモロコシ1キロ分が対価」との記述が妙に気になった。

近年の北朝鮮では、食糧事情は比較的安定している。流通量に変動はあっても、以前のように大量の餓死者が発生する状況ではない。

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ただ、国内に食糧は存在していても、国が配給してくれるわけではない。それぞれが商売で現金を稼ぎ、市場で買わなければならないのだ。商売では人それぞれ才覚に違いがあるし、貧富の差が生じ、貧しい人々は飢えることになる。

ただ、食糧の生産現場である農村で、トウモロコシたった1キロにどうしてそれほど困っているのか……と思っていたら、その原因の一端がようやくわかった。

国が決めた生産計画を達成できなかった農場員(農民)たちは、超高利の「借金地獄」に陥り、それが雪だるま式に膨らむ「魔のスパイラル」に喘いでいたのだ。

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ちなみに、借金と言ってもおカネを借りるわけではない。農民を相手に穀物を貸し付ける業者がいて、例えばトウモロコシ100キロを借りた場合、ジャガイモなら金利分だけで2トンを返さなければならないという、独特の取引が行われているのだ。

これなら、農民がたった1キロのトウモロコシに窮している事情もわかる。

問題は、彼らが生産計画を達成できない原因が、国家の側にあるという点だ。そもそも現実味のない計画が立てられ、ノルマが未達に終わると上層部に虚偽報告を行い、翌年もそれが繰り返されるという事態が続いているのだ。

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虚偽報告が横行する理由は言うまでもなく、金正恩体制による恐怖政治にある。正恩氏は、自らの権力を維持するためにやっていることが、国家を機能不全に追いやり、やがて自らの支配を不安定にするということに気づいているのだろうか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記