金正恩氏が朴槿恵氏に「恨み」を晴らす時が来た

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韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領が機密文書を民間人の知人女性・崔順実(チェ・スンシル)氏に漏洩した疑惑をめぐり、ソウル中央地検は10月31日深夜、崔氏を緊急逮捕した。

韓国の大手紙・朝鮮日報によると、朴氏の支持率は10.4%、ソウルおよび韓国首都圏での支持率は1桁にまで急落。まさに就任以来のピンチを迎えている。

朴氏が窮地に陥るなか、この状況を見ながら溜飲を下げているだろう人物がいる。昨年以来、朴氏によって散々辛酸をなめさせられてきた北朝鮮の金正恩党委員長である。ことのはじまりは昨年8月に起きた軍事境界線付近における地雷爆発事件だ。

地雷で吹き飛ぶ兵士の動画

昨年8月4日、韓国京畿道の非武装地帯(DMZ)で、北朝鮮が仕掛けた「木箱地雷」が爆発し、韓国軍兵士2人が足を切断するなど負傷。地雷爆発の瞬間をとらえた生々しい映像は一般公開され、事件の悲惨さが広く知らしめられた。

(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士…北朝鮮の地雷が爆発する瞬間

事件をめぐって開かれた南北会談では、朴大統領は対北朝鮮強硬姿勢を支持する韓国世論を後押しに一歩も引かなかった。その結果、北朝鮮が「遺憾」の意を表明し、事実上の謝罪を引き出した。

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さらに米韓は正恩氏をターゲットにした「斬首作戦」を導入するなど、たたみかけるように心理的圧力を加えた。

チキンレースで自身を無残な敗北に追い込んだだけでなく、にっくき「アメリカ帝国主義」と組んで斬首作戦で脅かす朴氏に対して、正恩氏が憎悪を抱いたであろうことは想像に難くない。

トイレにもストレス

それを裏付けるように、北朝鮮国営メディアの朴大統領に対する非難の度合いは日増しにエスカレートしている。ここ最近は連日、「希代の政治売春婦」からはじまって「売国逆徒」「親日逆徒」だの「狂った女」だのなんのと罵詈雑言を浴びせかけている。まるで正恩氏が紙面を通じて朴氏に対して恨みつらみを並べながらストレスを発散させているかのようだ。

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実際、正恩氏は普段からフツーのトイレを使えないことや様々な事にストレスを感じ、それを解消するためか、夜な夜な愛車のハンドルを握っていると言われるほど、精神的にキツい状態にあったようだ。

米韓は、こうした金正恩氏に更なる心理的圧力を加え、核・ミサイル開発の暴走をおさえる。もしくは、自滅の道に進むようなシナリオを考えていたのかもしれない。ここ最近の朴氏の言動は、脱北を呼びかけたり、金正恩体制の崩壊に言及するなど、あえて北朝鮮を刺激する表現が目立つ。これは、南北関係において優位に立っているという自信の表れだったのかもしれない。

逆に言えば、敗北続きだった金正恩氏は、朴氏が「崔順実ゲート」でピンチに追い込まれ溜飲を下げているだろう。さらに、このスキャンダルは正恩氏にとって南北関係において優位に立つチャンスとなり得る。

愛人ホストの利権集団

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崔順実ゲートをめぐっては、驚くことに崔氏と親しい財閥夫人や広告プロデューサー、彼女の愛人とされる元ホストが居並ぶ「素人利権集団」が、大統領にどのように指図するかを秘密裏に話し合っていたとの証言がある。事実なら、朴氏は「操り人形」だったということになる。

こうした新情報が出れば出るほど、北朝鮮の朴槿恵非難はさらに激化するだろう。もちろん正恩氏にもスキャンダルはあるが、表現の自由が一切ない北朝鮮ではスキャンダルなど問題にすらならない。一方、韓国はまがりなりにも民主国家であり、今回のように政治的スキャンダルは政権運営に悪影響を及ぼしかねない。

万が一、今の時点で北朝鮮が核実験やミサイル発射を強行、または小規模な軍事挑発を決行すれば、自身のスキャンダルで手一杯の朴氏が、まともに対応できるのだろうか。これまでのように、対北強硬姿勢を貫けるのだろうか。冒頭に述べたように、朴氏の対北朝鮮強硬姿勢をそれなりに支持してきた世論は、すでに離れつつある。

こうした朴氏のピンチを踏まえて、北朝鮮が何かを仕掛けてくる可能性は十分にある。つまり、金正恩氏にとって積年の恨みを晴らす千載一遇のチャンスが到来したのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記