金正恩氏は、今月10日の朝鮮労働党創立記念日にあわせて核実験を強行するのではと見られていたが、結局は行わなかった。
一方、韓国の大手紙・東亜日報によると、8月に亡命したテ・ヨンホ前駐英公使が、「北朝鮮は、来年末までに2回の核実験を準備中」と韓国情報当局に明らかにしたと報じた。
あくまでも消息筋の話だが、北朝鮮はことあるごとに核・ミサイル実験の継続を強調。金正恩氏は米国、そして国際社会に一歩も引く姿勢を見せていない。
こうした中、懸念されるのが度重なる核実験による放射能汚染だ。その影響は北朝鮮国外にも及んでいる可能性がある。
政治犯が強制被ばく労働
中国の延辺日報によると、核実験から比較的近い中国吉林省延辺朝鮮族自治州で、放射性物質の汚染調査が行われた。延辺朝鮮族自治州の州都延吉市と、核実験場のある北朝鮮の咸鏡北道(ハムギョンブクト)吉州(キルチュ)郡豊渓里(プンゲリ)までは200キロ、中国和龍市の南西部とはわずか80キロしか離れていないのだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面中国は北朝鮮の核実験に対して一貫して反対の姿勢を表明しているが、その理由の一つに放射能汚染の問題が自国に及ぶことを懸念している可能性もある。
北朝鮮国内では既に被ばくによる被害が頻発していると以前から囁かれていた。2013年の時点で、北朝鮮のウラン鉱山で働く労働者の平均寿命がその他の地域に比べ著しく短く、さらに、放射能汚染による奇形児の出産も多発していると内部情報筋が証言していた。
核施設では、政治犯が被ばく労働を強いられているという情報すらある。これは人権問題としても決して見過ごすことができない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面そもそも、北朝鮮では自国の労働者の安全すら顧みない成果優先主義がまかり通っている。長年続いた悪弊によって、過去には橋梁の建設現場で500人が一度に死亡する地獄絵図のような大惨事が起きていた。
放射能汚染の問題は、日本も決して無関係ではない。台湾の夕刊紙「自立晩報」は今年4月、北朝鮮の外貨獲得のための主要商品のひとつであるマツタケに、「放射性物質により汚染されているのではないか」との疑惑が持ち上がっていると報じた。
日本は、独自制裁によって北朝鮮産の食品が国内に出回ることはない。しかし、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の許宗萬(ホ・ジョンマン)議長の次男らが有罪判決を受けた北朝鮮産マツタケの不正輸入事件では、2010年9月に3トンのマツタケの取引が行われている。これらのマツタケが放射性物質の影響を受けていた可能性もある。流通量は微々たるものだが、放射性物質が引き起こす健康被害の深刻性を鑑みれば見過ごすことはできない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面自国だけでなく、隣国の中国や日本を含む海外にまで放射能汚染をまき散らしかねない北朝鮮の核実験は、安保問題以外のもう一つの脅威といえよう。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。