金正恩党委員長が、暗殺やテロを恐れていると韓国の情報機関・国家情報院が明らかにした。
韓国の国家情報院(国情院)は19日、国会情報委員会の国政監査で「金正恩党委員長は、身辺に危険が及ぶのではないかという不安感で、行事の日程や場所を急に変更したり、爆発物、毒物探知装置を海外から取り寄せて警護を大幅に強化したりしている」と説明した。韓国の聯合ニュースなどが報じた。
トイレの代用品も
金正恩党委員長は、今年8月末の台風10号によって甚大な被害に遭った北朝鮮北東部の咸鏡北道(ハムギョンブクト)の被災地をいまだに訪れていない。この理由について、デイリーNKの内部情報筋は「暗殺やテロを恐れて被災地を訪れない」と伝えてきたが、今回、国情院が明かした情報と通じるものがある。
しかし、金正恩氏は「トイレ問題」ですら不便を強いられるほどの徹底した警備体制に囲まれているにもかかわらず、平壌以外への移動に相当な不安を感じているようだ。
また、爆発物探知機の情報も興味深い。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面金正恩氏が地方を視察する際、現地では「武器弾薬の回収事業は元帥様のセキュリティに直結する最優先課題」と強調される。兵士のみならず住民、学校の生徒、さらには遠方から派遣された突撃隊もこの作業に動員される。
ここまで徹底しているにもかかわらず、爆発物探知機を導入するということは、それほど金正恩氏が怯えている証左といえるが、一体誰に、そして何に恐れているのか。
女子大生すら拷問する部隊を
今の北朝鮮で、組織だった反体制勢力が存在するとは考えづらい。だとすると金正恩氏や北朝鮮当局に恨みを持った個人によるテロ。実は今、水害被災地では住民の不満が高まっている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面金正恩氏は被災地を訪れないばかりか、災害に乗じて脱北しようとする住民を統制する狙いで、悪名高き秘密警察「国家安全保衛部(以下、保衛部)」を派遣した。保衛部は、今年4月には韓流動画をめぐって女子大生を拷問し悲劇的な結末に追い込むほどの残虐な取り締まりを厭わない部隊だ。
さらに、過去、女性問題などで数々の変態性欲スキャンダルを起こし、失脚と復活を繰り返してきた最高幹部・崔龍海(チェ・リョンヘ)氏を派遣するなど、被災住民の神経を逆なでしている。
そもそも今回の水害被害をめぐっては、被害発生の原因から、その後の対応の不手際など北朝鮮当局の責任は非常に重く、住民の不満は高まる一方だ。金正恩氏はこうした現地の空気を敏感に感じ取って、暗殺やテロを恐れているのかもしれない。だとするならば、爆発探知機や毒物検出器などの導入より、まずは自ら被災地へ行って、人民大衆の辛苦を己の身でもって理解すべきだ。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。