北朝鮮外務省は15日、ダニエル・ラッセル米国務次官補が金正恩党委員長の「即死」に言及したことについて、「宣戦布告を実行に移す敵対行為」であると非難する報道官声明を発表した。
ラッセル氏は12日の朝食会で記者団に対し、「彼(金正恩)はたぶん、核攻撃を遂行する強化された能力を持つことができるだろうが、そうなれば即、死ぬことになる(Perhaps he’s got an enhanced capacity to conduct a nuclear attack and then immediately die.)」と発言していた。北朝鮮は核攻撃能力を持ったとしても思い通りの結果を得ることはできない、と警告したものだ。
止まらぬ恐怖政治
これに、北朝鮮はどのように反応したか。朝鮮中央通信が配信した声明は、「彼の悪態は、近くホワイトハウスから退かなければならないオバマ一味の対朝鮮政策が完全失敗と烙印を押され、われわれを最強の核保有国に進ませて米本土の安全が丸ごと揺らぐようにした責任を免れようとする断末魔の身もだえにすぎない」などと指摘している。
独特の文体に慣れない人には意味を読み取りにくいかもしれないが、これはまったく筋の通らない主張でもない。
オバマ政権が北朝鮮の核武装阻止に失敗したことは否めず、今後、核兵器を放棄させるための妙案もないのが実情だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面人権問題での追及を受け、もはや国際社会の主要メンバーとなる道が閉ざされた金正恩党委員長は、外に対しては核とミサイルの暴走を続け、国内では恐怖政治を維持するしかなくなっている。
(参考記事:謎に包まれた北朝鮮「公開処刑」の実態…元執行人が証言「死刑囚は鬼の形相で息絶えた」)ラッセル氏が言ったように、北朝鮮はいずれ、米国に対し核攻撃を行いうる能力を備える可能性が高い。直近においても、北朝鮮は核実験と長距離弾道ミサイル発射を「同時強行」しそうな気配を見せている。本当にやったら、まさに「核ミサイル実験」と同様のインパクトがある。
では、そのような事態を受けて、米国は正恩氏を「即死」させることができるのかと言えば、それもなかなか難しいだろう。米韓は、北朝鮮との突発事態をきっかけにした「カウンター攻撃」計画を練っているフシがあるが、正恩氏がそう簡単にチャンスを提供するとも思えない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面米国はこれから中長期的に、北朝鮮とどのように向き合っていくつもりなのか。芯の通った戦略が打ち出されなければ、北朝鮮の増長を止めることはできない。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。