金正恩氏のストレスが南北「舌戦」激化をまねく

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北朝鮮と韓国の間の「舌戦」の激化が止まらない。朴槿恵大統領は1日、「国軍の日」記念式典で北朝鮮住民に対し「いつでも韓国の自由な地に来てほしい」と呼びかけた。

これに対して北朝鮮の労働新聞は3日付の記事で、「『恐怖政治』だの、『人権蹂躙(じゅうりん)』だのと言ってわれわれの最高の尊厳まであえて冒とくして『脱北』を扇動するヒステリックなほらもためらわずに吹いている」と反発した。

米韓は斬首作戦で圧力

南北双方の激しい舌戦は、今に始まったことではないが、ここ1年は北朝鮮側のナーバスな反応が目立つ。敏感に反応するようになったきっかけは、地雷事件に端を発した南北対立直後から米韓軍の間で論じられるようになった「斬首作戦」と見られる。

斬首作戦とは、ひらたくいえば北朝鮮の首脳部、すなわち金正恩氏に対する先制攻撃だ。実質的な核武装国となりつつある北朝鮮と韓国の間で全面戦争が勃発すれば、最終的に米韓連合が勝利するだろう。しかし、緒戦でソウルを「火の海」にされ、経済が甚大なダメージを受けるのは避けられない。それを防ぐために、「北朝鮮が戦争を決断する前に、先制攻撃で制圧してしまおう」という考え方である。

米韓の斬首作戦はあくまでも、正恩氏に心理的圧力をかけるレベルかもしれない。一方、1年前から継続的に論じられていることから鑑みると、米韓が正恩氏に対して「対話の余地は極めて少ない」と判断しつつあるのかもしれない。

不便なトイレもストレス

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一方、金正恩氏も「米韓との対話の余地はなくなりつつある」と考えているようだ。

相次ぐ核実験とミサイル開発の裏には、「一日も早く核ミサイルを実戦配備して、名実ともに核武装国家と言われるようになりたい」という正恩氏の切実な思いが透けて見える。核武装国家になれば、たとえ米軍といえどもおいそれと北朝鮮を攻撃できなくなるからだ。

それにしても、北朝鮮側は韓国のメディアを事細やかにチェックしているようだ。先月2日、北朝鮮は「朝鮮日報」「中央日報」「聯合ニュース」などの韓国大手メディアと並べて「デーリーNK」まで非難した。

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北朝鮮が名指しで非難したのは、デイリーNKの韓国版の方だが、筆者が編集長を務める「デイリーNKジャパン」にも、ごくごく少数ながら、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)からの訪問者のあることが分かっている。

(参考記事:金正恩氏の「ヘンな写真特集」を北朝鮮幹部が見ている

担当機関員どころか、正恩氏本人が、日韓メディアやデイリーNKジャパンにアクセスしながらエゴサーチしている可能性もなきにしもあらず。そうだとしたら、「トイレで不便な思いをしている」とか「ストレスがたまって夜な夜な愛車のハンドルを握っている」というような記事を見て、正恩氏はどう思うのだろうか。

まさか、自分に対する世界の評価にキレて、オバマ氏や朴槿恵氏に噛みついているはずはないと思うが、もしエゴサーチしていたとするなら、誰かが次のように進言すべきだろう。

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「元帥様の悪い評判ばかり流れるネットなんか見ていると精神的によくないですよ」

いや、こうした進言すらも今の金正恩氏からすれば、公開処刑の十分な理由になるのかもしれない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記