米軍の制服組の元トップが、北朝鮮への「先制攻撃も選択肢のひとつ」との意見を表明した。
オバマ政権で最初の統合参謀本部議長を務めたマイケル・マレン氏は16日、米シンクタンク・外交評議会(CFR)がワシントンDCで開いた討論会で「もし、北朝鮮が米国を攻撃できる能力を手に入れそうになり、米国を脅迫するのであれば、自衛的な側面から北朝鮮に対して先制攻撃を行うことができる」「理論的には(ミサイルの)発射台や以前に発射が行われた場所を除去(破壊)することは可能だ。米国には十分に(軍事的な)対応を行う能力がある」などと発言。
その上で「北朝鮮は米国を攻撃できるほどにまで核弾頭の小型化を進めている。挑発のレベルはすでに限界を超えた」「先制攻撃は様々なオプションの中の1つだが、最終的には今後の金正恩の動きにかかっている」などと指摘した。
ストレスから肥満度が増し、健康上の問題も指摘される金正恩党委員長のメンタルに、新たな重圧を与えかねない発言だ。
吹き飛ぶ韓国軍兵士
米国の安保・情報コミュニティーから、金正恩政権への先制攻撃論が出るのはこれが初めてではない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面テキサス州オースティンに本部を置く民間情報会社のストラトフォーは5月末、米軍は十数機のB-2ステルス爆撃機と24機のF-22ステルス戦闘機を中心とする戦力で、北朝鮮の核関連施設とミサイル発射施設を叩くことができるとする内容のレポートを発表。これに、北朝鮮メディアが猛反発する場面があった。
CIAや国防総省から出たものならいざ知らず、北朝鮮は民間のレポートにどうしてそんなに敏感になったのか。
その理由は同社の素性にある。正式な社名はストラテジック・フォーキャスティングといい、CIAの分析官も務めた政治学者、ジョージ・フリードマン氏が1996年に創設。その名が広く知られるようになったのは、イラク戦争(2003年3月)がきっかけだったとされる。開戦の半年も前に、同社はその勃発と戦闘の経過を詳細に予測していたのだ。以来、「影のCIA」などと呼ばれているが、実際に国防総省やCIAと強いパートナーシップを結び、情報活動の一端を担っているようだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面こうした背景を知ってみれば、北朝鮮にとって、同社のレポートは見過ごせるものではないだろう。
筆者としては、米軍がそう簡単に、北朝鮮を先制攻撃するとは思わない。日本や韓国が、仮に1発でも核兵器で反撃される可能性があれば、民主主義国家には出来ない選択だろう。
それでも、狙われている本人と第三者とでは、感じ方が違うものだ。前述したとおり、独裁者として生活や仕事上のストレスを抱えている正恩氏は神経質にならざるを得ないだろう。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮からの反撃のリスクをどう判断するかも、一義的には韓国の世論次第だ。昨年の地雷爆発事件のように、自国兵士が吹き飛ばされるような事態が北朝鮮により繰り返し再現させられるなら、「やってしまえ」との空気が強まる可能性はある。
いずれにせよ、正恩氏に時間を与えれば与えるほど、北朝鮮の核リスクは大きくならざるを得ないのだから。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。