北朝鮮が9日に5回目の核実験を行ってから2日以上が経過したが、同国のメディアは核実験と関連する金正恩党委員長の動静をいっさい伝えていない。
これは、正恩氏としては異例のことだ。
「ヘンな写真」も公開
たとえば、朝鮮労働党機関紙の労働新聞は4回目の核実験の翌日となる1月7日、「水爆実験最終命令書」にサインする金正恩氏の写真を1面に掲載した。
その後も、弾道ミサイル実験に成功するたび、北朝鮮メディアは正恩氏が現場で視察した様子を写真入りで報じてきた。
正恩氏と父親の故金正日総書記とで決定的に異なっているのは、メディアへの露出である。正日氏は晩年、中国とロシアを訪問し、外国人との会見も比較的活発に行ったが、1990年代の半ばまでは外部にほとんど素顔を見せず、自信を神秘的な存在として演出していた。自国メディアに掲載される写真も、カタにはまった地味な構図のものばかりだった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面それに比べ、正恩氏はサービス満点だ。
椅子にふんぞり返り、タバコ片手に爆笑している写真もあれば、明らかに不機嫌な表情のものや、あるいは事故死した側近の遺体を前に目を赤く腫らした写真も掲載されている。さらには、明らかに「ヘンな写真」も多数公開されており、本人が直々にセレクトしているとしか思えない。
また、スッポン養殖工場の支配人を銃殺させた際には、その直前の動画を放送させ、自分の恐ろしさを国民に思い知らせたこともあった。
(参考記事:【動画】金正恩氏、スッポン工場で「処刑前」の現地指導)太り過ぎで健康不安
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面このように、イメージ戦略に積極的な正恩氏が、せっかくの核実験後に沈黙を守る理由は何なのか。
韓国の専門家は、「台風10号(ライオンロック)で甚大な被害を受けた北部地域の復旧を優先している」「中国など友好国の出方をうかがっている」などの分析を示している。順当な読みだとは思うが、太り過ぎを指摘される正恩氏だけに、健康問題も気になる。
また、1年の間にまさかの「核実験2連発」を強行した正恩氏である。この間の沈黙に、何らかの特別な意図が隠されている可能性もゼロではない。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。