金正恩氏の「死刑執行人」が誕生するまで

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泣く子も黙る北朝鮮の秘密警察、国家安全保衛部(以下、保衛部)。そのトップである金元弘(キム・ウォノン)部長は金正恩党委員長の最側近のひとりとして知られる。

金正恩体制においては、高位幹部といえども安泰ではない。韓国政府は、正恩氏が執権してからの約5年間で、次官級以上の幹部100人が銃殺されたり、粛清されたりしたと見ている。

そんな中にあって、正恩氏から揺るがぬ信頼を寄せられていると見られる数少ない幹部のひとりが、金部長である。というより、保衛部は一般住民の思想取り締まりから幹部の公開処刑、政治犯収容所の運営を担う組織であり、金部長こそは、正恩氏の恐怖政治の実行役であると言っても過言ではない。

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米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は8日、北朝鮮に精通した消息筋の話として、そんな金部長の権勢の背景を伝えた。

それによると、金部長が正恩氏と親密な関係を築いたのは、正恩氏が故金正日総書記の後継者に指名された後のことだという。消息筋は言う。

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「金正恩は後継者に指名されてから1年間、軍部掌握のために朝鮮人民軍総政治局に出勤した。その際、そばで支えたのが金元弘だった」

当時、金部長は軍の人事を担当する総政治局組織担当副局長の任にあり、正恩氏のオフィスの隣室を使っていた。そして、軍上層部のプライバシーや不正に関する情報を正恩氏に提供することで、正恩氏の軍掌握を大きく助けたという。

その功が認められ、金正日氏の死後に国家安全保衛部長に昇進。正恩氏の意を受けて、高位幹部を大挙粛清して悪名を轟かせてきたわけだ。

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ちなみに消息筋は、正恩氏の叔父・張成沢(チャン・ソンテク)が処刑された件についてこう言っている。

「外部では、張成沢の処刑は朝鮮労働党組織指導部と保衛部の合作と見ているようだが、実は組織指導部内にも処刑に反対した人々がかなりいた。張成沢の処刑は金正恩と金元弘の共同作品であると見るべきだ」

ちなみに、4月に中国で発生した北朝鮮レストラン従業員の集団脱北事件をめぐり、関係者らが管理責任を問われ、公開処刑されたとの情報がある。RFAの取材に答えた中国駐在の貿易業者は、次のように言う。

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「集団脱北を受け、金元弘も管理責任を問われて解任されるとの観測もあったが、5月の第7回党大会では逆に政治局委員に昇格した」

死刑執行人に対する正恩氏の信頼は、かくも厚いものであるようだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

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