北朝鮮国民が「恐怖政治」について語った悲しすぎる本音

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4日、韓国国会で3月に成立した北朝鮮人権法が施行された。同法により政府傘下に設置される「北朝鮮人権記録保存所」は、北朝鮮の国家による人権犯罪の証拠を収集することになる。同様の役割を担っているものに、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)がソウルに開設した北朝鮮人権事務所もある。

また、米国政府は7月6日、北朝鮮の人権侵害に対する初の経済制裁を発動し、対象者リストの筆頭に金正恩国務委員長を掲げた。制裁の根拠となった米国務省の報告書は、北朝鮮国民の多くが、公開処刑や拷問、強制労働に苦しんでいると指摘している。

「幼い頃から残酷なことばかり」

では、当の北朝鮮国民はこうした動きをどう見ているのだろうか。

以下に、デイリーNK編集部が北朝鮮内部の人物に行ったインタビューを掲載する。この人物は、北部・両江道の国境地帯に住み、比較的北朝鮮国外の情勢に明るい40代の女性だ。普段は中国から仕入れた日用品を売って生活している。なお、冒頭部において、米国による制裁内容について説明していることを断っておく。

問:米国が金正恩国務委員長を人権制裁の対象としてはじめて指定したが、どう考えるか?

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答:そんな制裁が私たちにどういった助けになるでしょうか。今の私たちには、どこからコメが入って来るか、コメの値段がいくら下がったかにもっと関心があって、他のことには関心がないんです。以前にも朝鮮に制裁をすると言っていたが、結局被害は私たち庶民にくるばかりで、トップの人たちはやりたいことを全部やっているのではないですか?

問:今、国際的に人権問題は非常に重要視されている。北朝鮮では死刑制度と政治犯収容所を積極的に運営し、思い通りに強制労働もさせるが、こうしたことから国民を守ってくれるのが人権だ。こうした事実についてはどう思うか。

答:普通の人々は幼い頃から、そうした残酷なこと(人権侵害行為)ばかりを見てきているので、それが本当に良い事なのか悪いことなのか分別がつきません。また、罪を犯す人々は国家を裏切ったものだと(政府が)決めつけるので、犯罪者を殺し、殴ることは当然だと思っています。

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問:住民に崇拝心を強制し、人権侵害を行うのは将軍様と呼ばれる金正恩国務委員長ではないか。

答:それはそうですが、「法より拳が近い」という言葉があるように、米国が将軍様を制裁の対象にしたからといって何か変わりますか? 刃物を持っている人が目の前いて、家族やきょうだいが殺されても誰も私たちの味方をしてくれません。助けてくれるのは国の外にいる人だけというのは、私たちも分かってはいますが、結局、制裁のしわ寄せは(物価上昇などの生活難として)私たちにきて、私たちが不利になるだけだと思っています。

このように、話はなかなかかみ合わなかった。文中にある通り、人権についての教育を受けていない北朝鮮住民は、国家による暴力が悪い事とは分かっているが、国際社会が明確な規範とする「人権」が、具体的に何であり、それが自身の環境と未来にどう結びつくのかについての理解に苦しむようだ。こうしたケースは、北朝鮮住民へのインタビューを行う際に散見される。

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裏返せば、北朝鮮政府が住民に対し、幼い頃からいかに人権に関する知識を隠し、あざむいているのかの証左である。 金氏一族三代にわたる人権侵害にはいつ、どのような形で終末が訪れるのだろうか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記