金正恩氏が激怒した北朝鮮庶民のジョークとは?

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北朝鮮で相次ぐ外交官の亡命、そして高級幹部たちの処刑は、金正恩党委員長の恐怖政治が猛威を振るっていることを物語っている。

こうした中、北朝鮮の秘密警察・国家安全保衛部は、庶民たちに対して「内部の不純分子の敵対行為に警戒心を高めなければならない」という政治講演を通じて、思想統制を強めていると米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

ただし、その思想統制の中身とは最高尊厳を揶揄することは許さない、すなわち「金正恩氏をジョークのネタにするな!」というものだった。

高射砲で撃たれたいのか!

監視体制が隅々まで敷かれている北朝鮮では自由にものを言うことができない。反面、庶民から高級幹部にいたるまで、万が一言質を取られても、問題にならないような風刺ジョークで日頃の鬱憤をささやかに晴らす。

有名なところでは「3匹のクマ」。北朝鮮の庶民らは、かつてひそかに流行した韓流ドラマの中で歌われる童謡にのせて、間接的に、金日成、正日、正恩氏を皮肉った。

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昨年、北朝鮮の若者たちの間で流行ったジョークに「4丁高射銃で撃たれてみるか?」というのがある。「4丁高射機関銃」とは、玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)前人民武力部長の公開処刑で使われた銃火器で、人間を文字通り「ミンチ」にする恐ろしいもの。せい惨な処刑をジョークにするとは、いささか悪趣味だが、公開処刑が珍しくない北朝鮮の現実を反映していると言えるだろう。

そして、最近、国家安全保衛部が問題にしているのは2つのジョーク。そのうちの一つは「これは全てアメリカのせいだ」。

このジョークは、10年以上前から使われてきた。金日成時代から、北朝鮮当局は国際的に複雑な問題が起きる度に、無条件に「アメリカのせいで起こった事態」と主張してきた。こうしたことから、何か問題が起きた時、誰もがわかる原因に対して、とんでもない理屈をこじつけて強弁を張る中央の姿勢を「これは全てアメリカのせいだ」と揶揄する。

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もう一つは、確かに金正恩氏が耳に入れたら激怒するだろう。そのジョークとは「外の見物もできないバカ」。

処刑直前の動画を公開

「外の見物もできないバカ」という言葉は、昨年、金正恩氏が中国とロシアの戦勝節行事に出席できず、これにショックを受けた幹部らの間で、平壌を中心に広まった。就任以来、外国訪問もせず、首脳会談すら一度もしていない金正恩氏を揶揄したジョークだ。

プライドが高い金正恩氏が、本人や体制を揶揄する数々のジョークを耳にしたら確かに激怒するに違いない。同時に、たかがジョークに対して、わざわざ秘密警察まで使って箝口令を敷くのは、いかにも彼らしい。

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過去には、スッポン工場を現地指導した際、管理不十分という理由だけで、責任者を処刑し、さらに処刑直前の激怒の動画まで公開したぐらいだ。金正恩氏は、そこまでして北朝鮮の国民に恐怖心を植え付けなければならないと思い込んでいるのかもしれない。

(参考記事:【動画】金正恩氏、スッポン工場で「処刑前」の現地指導

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記