「高射銃」で人体が跡形もなく
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面金正恩党委員長の恐怖政治がまたもや牙をむき始めたようだ。韓国統一省は31日に行ったブリーフィングで、金勇進(キム・ヨンジン)教育副総理が6月末に公開処刑されていたと明らかにした。
これに先立ち、韓国の中央日報は29日、対北朝鮮情報筋の話として、「イ・ヨンジン教育相とファン・ミン農業相が、8月初めに平壌郊外の姜健(カンゴン)総合軍官学校で高射砲で公開処刑された」と報じた。姜健総合軍官学校とは、昨年、玄永哲元人民武力部長(国防省)が、まさにミンチと化された「処刑場」だ。
「処刑前」の現地指導
一方、韓国統一相は、中央日報の報道に対して、「イ・ヨンジンという名前とそのような職責はなく、確認中だ」と留保していた。しかし、この確認の過程で、衝撃的な事実が明らかになる。
統一省によると、処刑されたのはイ・ヨンジン(北朝鮮読みではリ・ヨンジン)氏ではなく、キム・ヨンジン(金勇進)副総理。彼は、今年6月末に開かれた最高人民会議に参加し、ひな壇の下部に座っていたが「座る姿勢が悪い」との理由で保衛部(秘密警察)の取り調べを受けた。
その結果、反党、反革命分子、現代版宗派であることが判明したという理由で、7月初めに銃殺されたという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面中央日報が報じたように「公開処刑」による銃殺だとするなら、政治的な理由よりも「見せしめ」の意味合いが強いようだ。正恩氏は昨年5月にも、スッポン工場(平壌スッポン工場に改称)の視察で激怒し、支配人を銃殺させた。その直前の映像は、テレビでも放映されているが、まさに「見せしめ」そのものであり、いかにも正恩氏らしい「恐怖政治」だ。
(参考記事:【動画】金正恩氏、スッポン工場で「処刑前」の現地指導)「この世の地獄」政治犯収容所
韓国統一省は、こうした情報と同時に、2人の大物幹部が一時的な思想教育である「革命化処分」を受けたと明らかにした。その人物とは金英哲(キム・ヨンチョル)氏と崔輝(チェ・フィ)氏だ。
金英哲氏は、過去には諜報、テロ、要人暗殺などの工作を行う対外工作機関「偵察総局」のトップを勤め、現在は対南工作を行う朝鮮労働党統一戦線部部長で、北朝鮮きっての対南強硬派と言われている人物だ。また、崔輝氏は、労働党の宣伝扇動部第1部長を勤め、昨年、モランボン楽団の北京公演の際には引率役を務めた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面2人が受けた「革命化処分」とは、一時的に地方の農場や工場へ送られ思想面での再教育を強いられる、ある種の島流しのような処分で、場合によっては復帰もあり得る。
金英哲氏は、統一戦線部の権限拡大を推し進める過程で権力を乱用した容疑で、7月中旬から8月中旬まで1ヶ月間、地方の農場に送られる革命化処分を受けたが、すでに平壌に復帰している。一方の崔輝氏は、宣伝事業に関連して金正恩氏から何らかの指摘を受け、5月末に地方に送られたと伝えられている。
金英哲氏、崔輝氏の2人とも、要職に就く幹部だけに、一時的な思想教育処分で済んだようだ。しかし、これが権力を持たない一般庶民となれば話が違ってくる。同様の罪を犯せば、銃殺などの極刑を逃れたとしても、「この世の地獄」と言われる政治犯収容所、もしくは教化所など、拷問、処刑が常態化している拘禁施設に収容されるのだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面気に入らないことがあれば、たとえ要職に就く幹部であろうと、公開処刑でさらし者にする金正恩氏の恐怖政治はしばらく終わりそうにない。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。