北朝鮮の朝鮮人民軍に、「ダーティー・ボム(汚い爆弾)」部隊が新設された模様だと米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
ダーティー・ボムとは、核分裂などのエネルギーで物体を破壊する兵器とは異なり、放射性物質の詰まった容器を爆発させて周囲にまき散らし、環境を汚染するものだ。高度な技術を必要とせず、核爆弾と比べ放射能汚染が長期間続くことなどから、「貧者の核兵器」とも呼ばれる。
破壊力よりは心理的な恐怖を与える部分が大きく、核テロリズムの道具といえるだろう。相次ぐ脱北事件の報復として、韓国人を対象にしたテロ団を海外に派遣したとも伝えられる金正恩党委員長ならば、いかにも目をつけそうなシロモノだ。
謎の「核リュック部隊」
2013年と2015年に行われた北朝鮮の軍事パレードでは、放射性物質を示すマークが付いたリュックサックを持って行進する兵士が登場。謎の部隊として、様々な憶測を呼んでいた。RFAの咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は「今年3月、朝鮮人民軍の各軍団の下に『核リュック部隊』が新設された。各軍団の偵察小隊と軽歩兵旅団から優秀な人員を抜擢し、部隊を新設した」と語っている。
また、咸鏡北道の清津(チョンジン)市青岩(チョンアム)区域文化洞(ムナドン)に駐屯している9軍団の45師団にも、核リュック部隊が新設されたという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面部隊の軍装は、他の歩兵部隊と変わらないため、一見しただけでは区別が付かないそうだ。兵士たちも「食糧や物資の配給も他の部隊とは特に変わらない」と述べている。
「核リュックはどんな形か」という質問に兵士は「実物は見たことがない」「3種類ある模擬の爆弾を持って訓練している」と答えている。
両江道(リャンガンド)の情報筋によると、道内の甲山(カプサン)郡上興里(サンフンリ)に駐屯している7軍団43軽歩兵旅団偵察大隊が今年3月、核リュック部隊に再編された。兵士たちはここでも模擬の爆弾を使って訓練している。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面別の情報筋は、故郷を訪れた北朝鮮の核関連技術者が酒の席で話したこととして「核リュックとは、小型化された核爆弾ではなく、高濃度ウラニウムを撒き散らす武器」「使われた地域では、人が数十年暮らせなくなるのに、なぜそんなものを作るのかわからない」と伝えている。
核施設で政治犯強制労働
北朝鮮は、1993年にNPTからの脱退を宣言。以後、国内の核関連施設は徹底して隠ぺいされ、いかなる国際安全基準にも縛られてこなかった。だからどのような放射性物質が、どれくらい蓄えられているか見当もつかない。ちなみに隠蔽された施設だからか、政治犯が放射線防護服もなしに「被ばく労働」させられている情報もある。
北朝鮮の放射性物質の危険性について考えるとき、決して日本にとっても他人事ではない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の関係者らによる北朝鮮産マツタケの不正輸入事件は記憶に新しいが、その中には、放射性物質により汚染されたマツタケが混入していた可能性もあった。
こうしたすべての問題に歯止めをかけるには、北朝鮮に核兵器開発をあきらめさせることが前提になる。結局のところ、金正恩体制に大きな変化が起きない限り、北朝鮮の核の脅威はなくならないのだ。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。