金正恩氏が「自分で殺した叔父」の亡霊に怯えている

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北朝鮮の金正恩党委員長が、2013年12月に自ら銃殺刑とした叔父・張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長の「影」を消すのに必死になっていると、韓国の聯合ニュースが伝えている。

聯合は北朝鮮の内部事情に詳しい消息筋からの情報として、正恩氏が「大同江(テドンガン)」「海棠花(ヘダンファ)」の名が冠せられた施設に過敏な反応を見せている、と伝えた。これらはいずれも、張氏が主導した事業の「ブランド名」であるためだ。

銃殺直前の動画

正恩氏は最近、これらふたつの名を冠した施設について「改称せよ」と命じたという。その中には浴場やサウナ、プール、レストラン、ブランドショップが備えられた高級レジャー施設「ヘダンファ館」も含まれる。

朝鮮労働党機関紙の労働新聞は2013年4月28日付で、正恩氏と李雪主(リ・ソルチュ)夫人が張氏とともに、オープン直前のヘダンファ館を訪れたときの写真を紹介している。そこでは屈託のない笑顔を見せていた正恩氏が、わずか数カ月後に張氏を銃殺刑にしたのだ。正恩氏の表情の明るさがむしろ、体制の裏側で進行していた権力闘争の陰惨さを感じさせる。

故金正日総書記から大きな信頼を寄せられ、部下たちからも人気があったとされる張氏が、正恩氏により反党、反革命の分派行為と国家転覆陰謀罪に問われるまでの過程を、ここで詳述する余裕はない。

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その代わりに指摘して置きたいのは、張氏の「影」が正恩氏のメンタルに及ぼす影響である。

正恩氏は昨年5月、張氏が2009年に建てた大同江スッポン工場(平壌スッポン工場に改称)を視察した際、運営状況への不満を爆発させ、支配人を銃殺させた。その直前の映像は、テレビでも放映されている。

激太りの裏で

このような極端な恐怖政治は、正恩氏本人の心身にもネガティブに作用していると思われる。

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韓国の国家情報院(国情院)は7月1日、正恩氏の体重が130キロと見られるとの分析を示した。もともと太目だった正恩氏の体型の変遷を検証すると、2013年8月あたりから本格的に太り始める。粛清の刀を振り回して恐怖政治を強化した時期と、急激に肥満度が高まる時期が一致するのだ。

独裁者としてトイレひとつとっても生活上の不便を強いられ、ただでさえ孤独の中にある正恩氏が自ら手にかけた人々の亡霊に怯えているとしたら、正常な精神状態を保とうという方が無理だろう。

聯合は消息筋の話として、正恩氏にとって張氏はひどいトラウマになっており、今では張氏と全く関係のない場所を視察していても、いきなり張氏を非難しながら怒りを爆発させることがあると伝えている。

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果たして、その怒りがさらに大きく爆発し、多くの人々に被害をもたらすことはないのか。北朝鮮が事実上、核武装するに至ったいま、正恩氏のメンタルがどのような状態にあるかは、北東アジアの安保にとってかつてなく重要な問題になってきている。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記