駐英北朝鮮大使が家族もろとも「見せしめ」か…本国から召還命令

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駐英北朝鮮公使の太永浩(テ・ヨンホ)氏が亡命した事件の余波が広がっている。複数の韓国メディアは、玄鶴峰(ヒョン・ハクポン)駐英大使に北朝鮮から召還命令が下ったと報じた。

後任として軍出身者が内定しており、既に英国側に承認を求めている状況だというが、実力者として知られているテ公使の亡命に対する責任を取らされた可能性が高い。

亡命事件以前からヒョン大使は召喚されていたという情報もあるが、テ公使の亡命により、彼のエリート人生は終わったと言えるかもしれない。左遷や更迭ならまだいい。農場や炭鉱、工場などで一定期間の労働を通じて反省させる思想教育「革命化教育」、最悪の場合は政治犯収容所に収監される可能性も出てきた。

連座制で「この世の地獄」へ

仮に政治犯収容所送りとなった場合、連座制が適用されてヒョン大使の家族もろとも収監されるかもしれない。英大使という立場から「この世の地獄」とも言われる収容所行きとなれば、まさに「天国から地獄」である。

それだけではない。金正恩氏は就任以来、高級幹部といえども意に沿わなければ、残酷な方法で「見せしめ」にしてきた。ヒョン大使には、家族もろとも悲惨な末路がまっている可能性もなきにしもあらずだ。

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国際社会から非難されているにもかかわらず、金正恩体制は、公開処刑や連座制を廃止しようとしない。体制を維持するため、例え体制に刃向うつもりはなくとも、失態を犯せば人生が終わることを徹底的に思い知らせるためだ。

人質統治も強化

こうしたなか、韓国の情報機関である国家情報院により、北朝鮮が最近、外交官が海外駐在に同伴している25歳以上の子どもらを本国に召還する命令を下していたことが明らかになった。北朝鮮は、これまで海外駐在員の脱北を防ぐため、最低1人の子どもを平壌に残すよう指示していたが、人質統治を強化する姿勢を見せているわけだ。

テ公使は息子2人を同伴しており、北朝鮮には子どもがいなかった。娘1人を平壌に残しているという情報もあったが、これは事実でないとされている。そして、長男のジュヒョクさんは現在26才。息子が平壌に召喚されれば、人質となり亡命は不可能になることから、このタイミングで決行したのかもしれない。

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また、テ公使の夫人であるオ・ソネ氏の父親は朝鮮人民軍総参謀部で副総参謀長を務める呉琴鉄(オ・グムチョル)氏であることも確認された。祖父は元抗日パルチザンで、党政治局中央軍事委員会、護衛司令部司令官、国防委員会副委員長を務めた呉白龍(オ・ベンリョン)氏、叔父は呉鉄山(オ・チョルサン)氏だ。

実は、この琴鉄、鉄山氏兄弟は、今月はじめに降格されたという分析が出ていた。時期的に見て、テ公使亡命との関連性にも注目される。そして身内から亡命者を出してしまったことによって、パルチザン家系として、金正恩体制を支えてきた2人の今後にも、暗雲が立ちこめはじめた。

テ公使亡命事件をきっかけに北朝鮮当局は、海外に派遣している外交官やビジネスマンたちへの締め付けを強化するだろう。しかし、いくら統制を強めようと、エリートらが、金正恩体制から逃げ出すことを決定的に食い止める術はない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記