駐英国大使館の太永浩(テ・ヨンホ)公使のように、韓国に亡命した北朝鮮外交官の数が今年上半期だけで10人に迫るもようだと、聯合ニュースが伝えている。聯合が北朝鮮に詳しい消息筋の話として報じたところによると、昨年1年間で韓国に亡命した北朝鮮外交官は約10人。今年は倍増ペースということになる。
こうした動向を見ていて気になるのは、彼らは北朝鮮のどのような秘密を持ち出したのか、ということだ。
「喜び組」を暴露
まず考えられるのが、金王朝の「秘密資金」に関わる情報だ。北朝鮮の外交官は合法・非合法を問わず、あらゆる手段により「秘密資金」作りに従事させられている。とくに欧州では今年、「秘密資金」作りの地域責任者が、日本円にして億単位のカネを持って行方をくらませたとも言われている。
そして、さらに気になるのが金王朝中枢の人間関係である。
振り返れば1996年、韓国に亡命した故金正日総書記の妻の甥・李韓永(イ・ハニョン)氏が暴露した情報は衝撃的だった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面1960年に平壌で生まれた李氏は、故金正日総書記の2番目の妻、ソン・ヘリム氏の姉の息子だ。平壌では、正日氏夫妻や2人の息子・正男(ジョンナム)氏と生活をともにし、金王朝の深奥の秘密に通じていた。
1982年に留学先のスイス・ジュネーブから韓国に亡命した李氏は、96年になって、金正日氏とロイヤルファミリーの私生活を赤裸々に綴った手記を発表。
(参考記事:金正日の女性関係、数知れぬ犠牲者たち)権力と「男女関係」
それ以降も各種メディアを通じ、「喜び組」や「秘密パーティー」など、体制の恥部とも言える秘話を暴露していく。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面そして、李氏のこうした行動に、正日氏は激怒。2人組の暗殺要員を韓国に潜入させ、李氏を滞在先のアパート前で射殺させた。
もっとも、最近脱北している末端の外交官たちは、ここまでの秘密には触れてこなかったかもしれない。それでも、断片的な情報ならば持っているはずだ。「出身成分」という厳格な身分制度が敷かれている北朝鮮で生き残るには、縁戚や愛人関係まで含めて、どのような人脈が持つかが非常に重要だからだ。
とくに興味深いのは、金正恩氏の異母姉で父・正日氏の秘書役も務めてきたと言われる金雪松(キム・ソルソン)氏の政権内部での立場や、失脚が伝えられる叔母の金慶喜(キム・ギョンヒ)氏の現状など、正恩氏を取り巻く女性実力者たちの情報だ。実妹で朝鮮労働党の要職にある金与正(キム・ヨジョン)氏の素顔も気になる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面そうした情報が、少しずつでも詳らかにされることを期待したい。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。