金正恩氏が「ひとりぼっち」にされそうになっている

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韓国の朴槿恵大統領は15日、ソウルで開かれた光復節(日本の統治からの解放記念日)71周年を祝う式典での演説で、北朝鮮に対し「核兵器をはじめとする大量破壊兵器の開発と対南(韓国)挑発、威嚇を直ちに中断するよう願う」と述べた。

このような呼びかけは以前からのものだが、今回、特徴的だったのは次の部分である。

北朝鮮当局の幹部とすべての北朝鮮住民の皆さん!

統一はあなた方すべてが、いかなる差別や不利益もなく同等に扱われ、それぞれの能力を存分に生かし、幸福を追求することのできる新たな機会を提供します。

同窓会を「血の粛清」

最初に、「北朝鮮当局の幹部とすべての住民」と述べている。 仮にこの呼びかけが、北朝鮮の全国民に向けたものであれば、「北朝鮮の皆さん」とでも言えば済む。それを敢えて、「幹部」と「住民」と述べたのは何故だろうか。

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北朝鮮国民は、ざっくり言って三つの階層に分かれている。最下層にいるのは、権力の類を持たない「一般住民(大衆、庶民)」だ。最近は、商売の才能いかんによって貧富の差が拡大する傾向があるが、何もないところから出発せざるを得ないという点では同じ境遇にいると言える。

彼らの上にいるのが、「幹部」である。実力でのし上がった者も少なくないが、家柄の良い既得権層が主流で、党や軍、行政の要職にあって様々な利権を握っている。

そして頂点にいるのが、独裁者だ。

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北朝鮮でも、その時々の実力者が「ナンバー2」と言える役割を果たすことはある。しかしたとえナンバー2であっても、彼は「幹部」の中のひとりに過ぎず、独裁者との間には決して越えられない壁がある。

つまり朴槿恵大統領の演説は「独裁者」、すなわち金正恩党委員長だけを除外した、北朝鮮のすべての人々に対する呼びかけなのだ。そしてその狙いは、正恩氏を孤立させることにある。

こうしたメッセージを発しているのは、韓国だけではない。トム・マリノフスキー米国務次官補(民主主義・人権・労働担当)は、「いま北朝鮮で人権侵害に加担している連中は、世の中が変わったらどうなるか覚えていろよ。それが怖ければ今からでも生き方を変えることだ」という趣旨のことを言っている。

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米韓がこうしたメッセージに込めているのは、北朝鮮が内部から変化することへの期待だ。ヒラリー・クリントン氏の外交ブレーンであるウェンディ・シャーマン元国務次官も5月、米ワシントンDCで行われた朝鮮半島関連セミナーの昼食会で発言し、「北朝鮮で内部崩壊またはクーデターが起こる可能性を想定するのは不可欠であり、韓国と米国、中国、日本が速やかに協議を行うべきだ」と述べている。

正恩氏は「深夜の走り屋」

もっとも、北朝鮮でクーデターを起こすのがいかに難しいかは、誰もがわかっているはずだ。軍幹部といえども、同窓会レベルの人脈作りすら許されておらず、実際に1990年代には「血の粛清」が行われている。

(参考記事:同窓会を襲った「血の粛清」…北朝鮮の「フルンゼ軍事大学留学組」事件

だから米韓も、北朝鮮内部ですぐに大きな変化が起きるとは考えていないだろう。それでも正恩氏の孤立感を深め、疑心暗鬼へ導き、ストレスを増大させることはできるかもしれない。

ただでさえ独裁者は孤独であり、生活にも様々な不便がともなう。

正恩氏は激太りに加えて睡眠不足にも苦しんでいると見られ、夜な夜な愛車のハンドルを握り、平壌市内を流しているとウワサされるほどだ。

米韓のねらいがどこまで効くかはわからないにせよ、正恩氏が恐怖政治を背景とした独裁権力をふるい続ける限り、彼が孤独から脱出できる日は来ないのではないだろうか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

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