中国公安の「拷問」は「健康診断」から始まる

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7月、日中交流団体関係者の日本人男性が中国当局に拘束されたことが明らかになったが、その後の情報が途絶えている。

中国当局は昨年5~6月にも、スパイ行為に関わったとして日本人の男女4人を拘束し、その後、相次いで「国家安全危害」容疑などで逮捕。今年5月には愛知県の50代の男性を中国当局が起訴していたこともわかっている。

日本の「エリート・スパイ」

こうした一連の動きに対し、日本政府はどのように対応してきたか。菅義偉官房長官は28日の記者会見で、今回の男性がスパイ行為に関与した疑いで中国当局に拘束された可能性について「我が国政府はいかなる国に対してもそうした活動には従事していない」と語るにとどめた。

仮に、拘束された人々が情報活動に関わっていたとしても、官房長官としてこのように言うしかないだろう。それでも水面下では、「何が何でも奪還しよう」との動きがあってしかるべきではないのか。

ハッキリ言って、政権にも公安当局にもマスコミにも、そんな空気はぜんぜんない。

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日本政府やメディアがのんびり構えているのは、中国当局も外国人に対しては、それも日本のような米国の同盟国に対しては丁重な扱いをすると考えているのかもしれない。

もしそうなら、それは大きな間違いだ。

わがデイリーNKジャパンとも深い関わりのある韓国の人権活動家・金永煥(キム・ヨンファン)氏は2012年、中国当局によって長期にわたり拘束され、電気拷問など様々な拷問を受けた体験を語っている。

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中国公安は、わざわざ金氏の健康診断を行い、暴力やショックに耐えられる状態かどうかを確かめて拷問を加えていたという。

その冷徹な行動からは、「必要なときに、必要なことを行う」という行動原則がうかがえる。いま拘束されている日本人だって、日本政府や世論が関心を持ち続けなければ、身の安全は保てないかもしれないのだ。

メディアにも問題がある。この問題は、日本が今後、インテリジェンスとどのように向き合うかを問うものでもある。それなのに、普段は「国防」を論じるのが好きな保守メディアですら、安倍政権のミスを矮小化したいのか「日本に必要な諜報」に言及しようとしない。

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欧米に比べインテリジェンス活動が遅れていると考えられがちな日本にも、かつてはCIAなどから称賛を浴びた「凄腕スパイ」はいた。

しかし、今回のような問題にしっかり対処できなければ、リスクの高い情報活動を買って出ようという人材は本当にいなくなってしまうのではないか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記