北朝鮮「拉致被害者の夫」出演映画にナゾの視聴禁止令

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北朝鮮当局が最近、国内で過去に制作された映画10本の視聴を禁止したと米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。同放送によると、その中には拉致被害者である曽我ひとみさんの夫であるチャールズ・ジェンキンス氏が出演した映画も含まれているという。

韓流でせい惨な拷問

RFAの咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、禁止されたのは「名も無き英雄たち」「春の日の雪どけ」「大紅湍(テホンダン)郡責任秘書」など10本だ。これらの映画の視聴と流通を禁じる通達が出されたが、その理由は明らかにされていない。

しかし、いずれの映画もかなり前に作られた作品だ。多くの住民は「莫大なカネと時間を費やして作った映画をなぜ禁止にするのか」「とっくの昔に見た映画ばかり。今ごろになって、なぜ禁止するのか」と、当局の指示を鼻で笑っているという。

さらに、指示が下された後、「韓流ドラマでも見よう」という雰囲気が広がり、何のための指示かわからない状況になっている。2000年以後、北朝鮮では、韓流をはじめとする外国映画が違法DVDやメモリなどのデジタルメディアを通じて拡散した。

北朝鮮国営メディアが放映するプロパガンダ中心の放送コンテンツは、娯楽に飢える北朝鮮住民にとっては退屈極まりなく、韓流ドラマや外国映画を見たがるのは、ごく自然の流れといえる。ただし、北朝鮮で韓流ドラマの視聴は、あくまでも違法行為。多くの住民に拡散しているが、時には命がけの視聴になり、罰としてせい惨な拷問を加えられることもある。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

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拷問どころか、過去には、故金正日総書記に関する最高機密スキャンダル「喜び組」をテーマにした韓流ドラマを流通、販売させた罪で3人の女性が、銃殺刑に処されたことすらある。

しかし、今回、禁止されたのは北朝鮮当局が、プロパガンダとして制作したものだ。一体、どこに問題があったのだろうか。北朝鮮当局が、これらの映画の視聴を禁止した理由について先述の情報筋は次のように語った。

「韓流ドラマだけでなく海外のドラマの中では、外国の自由な生活や人権について語ったり、無能で腐敗した支配者を追い出したりするストーリーが含まれている。当局は、こうしたドラマや映画を見た人々が北朝鮮の現実と重ねあわせることを恐れたのではないか」

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金正日時代には、朝鮮王朝時代の民衆蜂起の指導者を描いた映画「林巨正」(リム・コクチョン)が禁止作品に指定されている。

咸鏡北道の別の情報筋によると、住民たちは、禁止の理由について知りたがっているという。「大紅湍郡責任秘書」と「ある女学生の日記」は、主演俳優が処刑された張成沢氏の側近だったということが禁止の理由という話が広がっている。

ここ数年の韓流ブームですっかり目が肥えた北朝鮮の人々は「北朝鮮の映画など見ろと言われても見ない」と言い、今回の禁止令をきっかけに、若者や幹部の間では、韓流映画や外国映画を見ようとする雰囲気が高まっている。

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ちなみにチャールズ・ジェンキンス氏が出演した「名もなき英雄たち」は、1978年から1981年にかけて、20回シリーズで制作された。朝鮮戦争時に暗躍したスパイを描いたもので、思想教育的な内容も少なく、まるで外国映画みたいだと人気を博した。しかし、権力闘争に巻き込まれ、監督は地方へ追放、脚本家はスパイ容疑で逮捕され、収容所で自殺したといういわくつきの作品でもある。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

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