北朝鮮が19日、日本海へ向けて弾道ミサイル3発を発射した。また、5回目の核実験を準備しているかのような動きも見せている。
これについて、主要メディアは揃って、「米韓は北朝鮮の弾道ミサイルに備え、高高度迎撃ミサイルシステム『THAAD(サード)』の在韓米軍への配備を決めており、これに反発した可能性がある」との解説を掲げている。
米軍が「斬首」の脅し
確かに、北朝鮮メディアは連日のようにTHAADの配備を非難している。しかし実際のところ、北朝鮮のミサイル発射や核実験は「反発」から行われているわけではない。
金正恩党委員長は今年に入り、核爆弾をミサイルに搭載できるようにする「弾頭化」と、それを敵に打ち込むための運搬手段(ミサイル)の開発を明確に指示し、そのことを新聞や放送を通じて明らかにしている。つまり、信頼性の高い核ミサイルの実戦配備を急いでいるわけで、それがミサイルや核の「実験」を繰り返す第1の理由だ。
そもそも、北朝鮮が核ミサイルの開発を進めれば、米韓がTHAADを配備して守りを固めるのは当たり前のことで、誰にでも予想できる。そんなことに怒り狂ってミサイルを乱射しているのだとしたら、正恩氏はまったくの「愚か者」であるということだが、本当にそのように考えて良いものだろうか。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面弱冠32歳にして自前の独裁システムを構築し、アジアの最貧国に核武装させてしまうような人物を、そのように侮るのはむしろ危険なことだと筆者は考える。THAAD配備に対する「反発」姿勢の裏にも、何らかの思惑があると疑ってみるべきだろう。
THAADの韓国配備が決まったことで何が起きているか、情勢を俯瞰してみよう。韓国では、情勢のさらなる緊張を憂えてTHAAD配備に反対する声も強く、世論が割れてしまっている。また、THAADの強力なレーダーによって自国の核ミサイルが無力化されることを嫌う中国とロシアは、北朝鮮にも増して米国への反発を強めている。
北朝鮮にとって、実にウェルカムな展開ではないか。日本のメディアはまったく報じないが、北朝鮮メディアは最近、韓国の動揺と「米国VS中露」の対立激化を、喜々として書きたてているのだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面この状況で、北朝鮮がさらにミサイル発射と核実験を重ねたらどうなるか。米韓はいっそう軍事力強化に走り、中露との溝は深まる。韓国世論の動揺も増すかもしれない。つまり、北朝鮮がTHAAD配備に「反発」して見せているのは、自国に対する包囲網を切り裂くための心理戦の一環なのだ。
もっとも、心理戦を行っているのは、北朝鮮だけではない。米韓は昨年来、正恩氏らに対する「斬首作戦」を導入する動きを見せ、北朝鮮から本物の反発を誘った。正恩氏はさぞや怒り、不安を募らせたことだろう。
(参考記事:米軍が「金正恩斬首」部隊を韓国に送り込んだ)激太りの理由
また、米国が人権問題で正恩氏を追及する姿勢を強めていることもまた、彼を不安にさせているかもしれない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面韓国の国家情報院(国情院)は1日、北朝鮮の金正恩党委員長の体重が130キロと見られるとの分析を示した。もともと太目だった正恩氏の体型の変遷を検証すると、2013年8月あたりから本格的に太り始める。粛清という刀を振り回して暴走を始めた時期と、急激に肥満度が高まる時期が一致するのだ。
恐怖政治を激化させる中で、なんらかの猜疑心やストレス、プレッシャーにさい悩まされたことが極度の肥満をもたらした可能性は充分にある。
正恩氏は今後も米韓、そして日本に対し様々な心理戦を仕掛けるかもしれないが、それは必ず相手からの反撃を招く。その繰り返しの中で正恩氏の精神が崩壊し、自滅していくこともあり得なくはなかろう。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。