奴隷扱いされる北朝鮮の派遣労働者たち…人権侵害追及にEUも乗り出す

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北朝鮮のせい惨な人権侵害の実態は、おおよそ明らかになっている。見過ごせないのは国内だけでなく海外に派遣される労働者にも及んでいることだ。

強制売春や逃げればリンチのケースも

海外に派遣された多くの労働者は劣悪な環境での仕事を強いられ、移動、通信も制限され、厳しい監視のもとで暮らしている。時には、1日に20時間もの長時間労働を強いられ、休みは月に1~2日しか与えられない。

仮に職場から逃亡すれば、本人のみならず、北朝鮮に残してきた家族に制裁が加えられる。また、現場から逃げ出そうとした労働者が、まるで米国の奴隷制度のもとで黒人奴隷に行われていたような凄惨な私刑(リンチ)を受けている。

女性もまた、海外の労働現場で苦痛を強いられている。外貨獲得の柱の一つでもある北朝鮮レストランは通常業務もかなりハードだが、それに加えて本国から要求される厳しい売上ノルマのため、「売春」強要などの虐待を受けるケースもあるという。

しかし、こうした派遣労働者に対する人権侵害についても、国際社会がようやく本格的に動き出した。

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韓国の聯合ニュースによると欧州連合(EU)欧州委員会は20日(現地時間)、欧州の一部の国で、北朝鮮労働者に対する強制労働など人権侵害にかかわる法違反があるかを把握するため、当事国と接触しているという。仮にEU関連法に違反していることが明らかになれば、制裁の可能性があるとのことだ。つまり、欧州内の北朝鮮派遣労働者に対する人権侵害の真相把握に着手したのだ。

すでに、オランダ出身の欧州議会議員は、欧州委員会に提出した質疑書で、北朝鮮派遣労働者を現代版の奴隷だと指摘するなど、北朝鮮派遣労働者に対する人権侵害の実態解明に向けた動きは活発化しつつある。

こうした動きは歓迎すべきだが、欲を言えば、中国国内における脱北者の人権問題についても切り込んでほしい。

性犯罪の標的になる少女たち

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派遣労働者と脱北者の人権問題は、関連性がないように見られるが、決してそうではない。

米国務省が先月末に発表した人身売買に関する年次報告書によると、北朝鮮は、14年連続で最悪の人身売買国として評価された。

報告書は、北朝鮮当局の弾圧を避けて国を脱出した少なくない人々が、中国で人身売買の犠牲になっていると指摘。さらに、中国に脱出した人のうち、1万人に達する女性が強制結婚、望まないセックスワーク、家事労働などで苦しめられているという。これは成人女性に限った話ではなく、幼い少女たちも含まれる。

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北朝鮮当局からすれば中国国内の脱北者など「体制の裏切り者」に過ぎず、「中国が脱北者を煮て食おうが焼いて食おうが、どうぞご勝手に」というのが本音かも知れない。

しかし、脱北者を生み出す背景には、北朝鮮の過酷な人権侵害と国民不在の政治がある。国民の人権と生命を守ることは国家の基本的な義務だ。それを怠っていることが、脱北者を生み出す最大の要因だ。そういう意味では、北朝鮮当局、そして金正恩党委員長の責任は決して逃れられない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記