今月1日、ロシアのウラジオストクで、北朝鮮労働者が焼身自殺する事件が発生した。
ロシア警察当局によると、この労働者の家から朝鮮語で書かれた遺書が発見された。そこには「仕事が辛く、カネもなく、生活が苦しい」などと書かれていたという。また、「誰も恨んでいない」との言葉もあったとのことで、抗議を込めた自殺ではなかったのかもしれない。
凄惨なリンチ
ただ、個人の権利がほとんど尊重されない北朝鮮において、多くの(あるいはほとんどの)人々が「人権とは何か」の概念すら持ち合わせていないと言われる。
(参考記事:脱北女性、北朝鮮軍隊内の性的暴力を暴露「人権侵害と気づかない」)それがあれば、「国家に抗議して当然」と思わせるほど、北朝鮮の海外派遣労働者の置かれた状況は過酷だ。
多くの労働者は劣悪な環境での仕事を強いられ、移動、通信も制限され、厳しい監視のもとで暮らしていると指摘し、逃げ出した場合には本人のみならず、北朝鮮に残してきた家族に制裁が加えられるとしている。1日に12時間から16時間、場合によっては20時間もの長時間労働を強いられ、休みは月に1~2日しか与えられない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面この問題については、現場から逃げ出そうとした労働者がアキレス腱を切られたり、掘削機で足を潰されたりという凄惨な私刑(リンチ)を受けていることが、デイリーNKの取材でもわかっている。
女性もまた、海外の労働現場で苦痛を強いられている。外貨獲得の柱の一つでもある北朝鮮レストランは通常業務もかなりハードだが、それに加えて本国から要求される厳しい売上ノルマのため、「売春」を強いられるケースもあるという。
12人もの女性従業員が集団脱北するのも、無理はない状況なのだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面最近、北朝鮮は300人もの国家安全保衛部(秘密警察)要員を海外に送り、派遣労働者たちの監視に当たらせているとも聞く。
だが、現場が海外であるだけに、実態の完璧な隠ぺいは望むべくもない。外貨に窮した北朝鮮は自ら、国民への「虐待の証拠」をも輸出してしまっているのだ。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。