北朝鮮の「同性愛」事情…その知られざる実態を体験者が告白

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脱北し、韓国で小説家となった男性がいる。名前はチャン・ヨンジンさん。現状では、脱北者で唯一のオープンリーゲイ(カミングアウトした性的少数者)だとされる。彼は昨年4月、自叙伝小説「赤いネクタイ」を韓国で出したが、このたびその英語版が出版されることになった。

近年になって、LGBT(性的マイノリティ)の権利擁護のための施策が各国で強化されつつあるが、権力者が人権の概念すらちゃんとわかっているか怪しい北朝鮮ではどうか。

軍隊では男性同士で

北朝鮮にも、もちろん性的マイノリティはいる。

たとえば昨年には、「北朝鮮のゲイ軍人」と題された画像が世界中のネットで話題を集めた。軍事境界線の韓国側に設置された監視カメラがとらえた動画をキャプチャーした複数枚の画像で、朝鮮人民軍の2人の男性兵士が、抱き合ったりキスをしたり、かと思えば一方がもう1人の求愛をはねつけるような仕草を見せている。

(参考記事:前線で火を噴く「愛の砲火!!」 北朝鮮のゲイ軍人画像に世界が注目

これが本当に同性愛によるものかどうかは確かではないが、北朝鮮の兵役は10年以上にもなるため、厳しい軍紀に縛られた期間中に同性同士で「親密な関係」になることは珍しくないようだ。

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だが、国家や社会が、彼らのために何らかの施策を行っているかといえば、そうではなさそうだ。

韓国で2重の差別

チャンさんは米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューで、自分の生い立ちについて語っている。少年時代から、ソンチョルという名の同性の友人に恋心を抱き続けながらも、自分で同性愛者であることに気づくことすらできず、無理をして結婚した女性との生活の中で悩み続けたという。

ひとことで言って、北朝鮮には同性愛という概念すら存在しないのだ。北朝鮮は、性的マイノリティを迫害するホモフォビア(同性愛嫌悪)の国ではないが、そうした人々に対する理解もない。

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時に、国営メディアが同性愛者に対するヘイトスピーチを行っていることを考えると、やはり性的マイノリティの尊厳は認められていないと考えた方がいいだろう。

そんな息苦しい社会から、チャンさんが逃げ出したのは必然に思える。しかし残念なのは、韓国に行ってからも自由を謳歌できていないことだ。脱北者であり性的少数者である彼は「ダブルマイノリティ」として、二重の差別を受けてきたのである。

韓国では、キリスト教保守プロテスタントを中心にした勢力がホモフォビア(性的少数者差別)を煽り、性的少数者のパレードに対して激しい妨害を行うばかりか、「性的指向に基づく差別を禁止する」という条項が含まれているとして、差別禁止法の制定にも激しく反対している。

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性的少数者の尊厳を平気で踏みにじる行動や言動を続けている彼らだが、一方で北朝鮮に対して人権問題の解決を要求し、韓国に暮らす脱北者の生活支援を行っている。実に皮肉な現状ではある。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記