クウェートの建設現場で働く北朝鮮労働者が、ストライキや抗議活動を行っていたことが明らかになった。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
RFAの取材に応じた情報筋によると、ストが起きたのは昨年12月のことだ。北朝鮮の建設会社が労働者に「資金繰りが苦しい、給料は手形で支払い、北朝鮮帰国後に現金化する」と説明したところ、労働者が激しく反発してストを起こしたという。
また、今年3月には、北朝鮮建設会社の幹部が、「朝鮮労働党第7回大会に向けて外貨稼ぎに励もう」との話をしたところ、労働者たちが「給料をまともに払え」と反発し、抗議活動を行った。
収容所送りか
さらに、カタールの首都ドーハでは先月、北朝鮮当局の搾取に耐えかねた労働者2人が、カタールの警察署に逃げ込む事件も起きている。
海外に派遣された北朝鮮労働者の劣悪な労働環境については、様々なソースから情報がもたらされている。しかし従来は、自分や国に残した家族が国家により不利益を被るのを避けるため、泣き寝入りしたり、逃げ出して身を隠す例が多かった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面今年1月には、ロシアに派遣されていた労働者が、「仕事が辛く、カネもなく、生活が苦しい」との遺書を残して焼身自殺。その現場の動画がニュースで報じられたこともあった。
しかしさすがに、北朝鮮の人々も自意識が強まってきた。北朝鮮の国民はすでに、国家の配給制度に頼らず、自分たちの商売の稼ぎで日々の糧を得ている。当局の監視の目を縫って、海外情報とのアクセスも広がっている。徐々に、自己主張せずにはいられなくなっているのではないか。
ただ、北朝鮮当局のやり方は変わっていない。クウェートでのストの件も国内で起きていれば、かつてと同じように戦車で踏みつぶしていたのではないか。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮当局は、クウェートで働いていた労働者数十人に対して帰国命令を出し、5月17日の高麗航空の臨時便に乗せて帰国させた。本人たちには帰国命令を出発前日まで知らせず、前日まで通常通り働かせていた。
その後、労働者たちがどうなったかは分からないが、昔なら政治犯収容所に送られたり、公開処刑もあり得たはずだ。
今後は、体制に抗議の声を上げた北朝鮮の人々がそのような目に遭うことがないよう、国際社会は、何らかの救済手段を構築すべきではないだろうか。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。