セリエAで北朝鮮選手がピンハネ被害か

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イタリアのプロサッカーチームに所属する北朝鮮出身の選手が、北朝鮮当局によりギャラをピンはねされている疑惑が浮上。同国の外務省などが、実態解明に動き出す事態となっているとしたと英国の英国のデイリー・テレグラフが報じた。

欧州が北朝鮮サッカー選手に熱い視線

北朝鮮のサッカー選手がイタリアでプレーしていたのも意外だが、近年は海外リーグに進出する選手も出てきており、必ずしも珍しい話ではないようだ。

ピンハネされていると見られているのは、平壌の哨兵(チョビョン)体育団出身で、ACFフィオレンティーナのユースチームに所属する18歳のチェ・ソンヒョク選手。

チェ選手は、2014年にバンコクで開かれたAFC U-16選手権でMFとして活躍し、韓国を2-1で下すのに決定的な役割を果たした。また、昨年チリで開催されたFIFA U-17ワールドカップで、北朝鮮チームをベスト16に導いた。

韓国の聯合ニュースによると、チェ選手は有望なプレーヤーを発掘、養成するペルージャの「イタリア・サッカー・マネージメント」が主催するキャンプに、他の北朝鮮チームのプレイヤーと参加したことで、フィオレンティーナの目に留まり、契約に至った。今年3月に同チームと契約し、北朝鮮出身選手としては初めてイタリアのチームでプレーすることになった。

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チェ選手だけでなく、FWのチョン・チャンボム、GKのリ・チョルソンもヨーロッパの複数のメジャーなクラブの視線を引きつけているという。

北朝鮮選手の契約ということから、イタリア議会外交委員会のミッチェル・ニコレッティ氏ら複数の下院議員は、北朝鮮当局が外貨稼ぎの一環として同選手の給料をピンはねしているのではないかと憂慮の念を示し、イタリア外務省と労働省に、彼がきちんと契約金や給料を得られているか契約を再確認するよう公式に要求した。

契約金は定かではないものの、5万ユーロ~10万ユーロ(約615万円~1230万円)が支払われたと伝えられている。契約に際して、朝鮮サッカー協会の事務局長がわざわざイタリアを訪問して、契約条件などの交渉にあたったことがわかり、さらに疑惑が深まっている。

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疑惑が浮かぶ背景には、北朝鮮レストラン従業員の相次ぐ脱北事件があると見られる。彼女たちは、日頃から重労働、そしてノルマ達成のために、時に強制売春を強いられているとの情報すらある。こうした実態は、国際的にも問題化しており、イタリアのサッカー界としても見過ごせない、ということから疑惑が浮上したのかもしれない。イタリア当局は、ニコレッティ議員の要求に対して調査を行い、数週間以内に書面または対面で回答する義務がある。

(参考記事:中国の北朝鮮レストランで「強制売春」説が浮上)

石原慎太郎氏が絶賛した北朝鮮サッカー

イタリアの「ユーロスポーツ」は、3月27日付の記事で、チェ選手を、全体主義体制下で育っただけあり、「注意深すぎる」と評する一方で、「礼儀正しい」とも評価。今ではチームに溶け込み、イタリア文化に慣れ、トスカーナ料理に舌鼓を打っているとのことだ。

その一方で、北朝鮮当局は彼がネットを使うことや、練習以外でのチームメイトとの接触を禁じていることも暴露している。さらに、この時点でピンはね疑惑も指摘していた。

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ところで、イタリアと北朝鮮のサッカーの縁といえば、多くのオールドサッカーファンが、1966年W杯イングランド大会を思い起こすだろう。

半世紀前、初出場の北朝鮮代表は、強豪イタリアを破り決勝トーナメントまで進出。その活躍ぶりは、日本でも衝撃をもって受け入れられた。朝鮮総連が発刊していた北朝鮮グラフ誌「朝鮮画報」(現在は廃刊)では、保守の論客として知られる石原慎太郎氏が、「北朝鮮サッカーと交流すべきだ!」と強調するほどだった。

イタリア代表を撃破し、アジア初のベスト8に輝いた北朝鮮代表は、「奇跡のイレブン」と呼ばれ、長らく伝説となっていた。イタリアでプレーするチェ選手は、いわば奇跡のイレブンのDNAを受け継ぐプレーヤーなのだ。彼が心置きなくサッカーに集中できるためにも、イタリア当局がピンハネ疑惑をしっかり調査することを期待する。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記