親の仇を手斧で皆殺し…北朝鮮外交エリートの素顔

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北朝鮮の対米外交の「司令塔」と言われてきた姜錫柱(カン・ソクジュ)朝鮮労働党前書記が20日、急性呼吸不全と食道がんのため死去した。

白色テロによって両親は惨殺

姜氏の体調不良については、以前からささやかれていた。昨年7月に会談した欧州議会のウォルフガング・ノバク議員が、「非常にやつれて20キロも体重が減った姿を見て衝撃を受けた」と語っていた。その後もロシアやキューバを訪れていたが、海外でガン治療するためと見られていた。

ここ数年は、対外活動はできない状態だった姜氏だが、1990年代の第1次核危機に際しては対米交渉を直接担当。核開発を凍結する見返りに、軍事転用の可能性がより低い軽水炉の提供を受ける「米朝枠組み合意」に署名した。

当時、朝鮮半島情勢は現在にも増して緊張していた。ホワイトハウスは、本気で対北空爆を検討していたとされる。日本では、核開発の資金源を遮断するため、警察庁が極秘の捜査マニュアルを作成。朝鮮総連に対する強制捜査に着手していた。

そんな中、対米交渉をまとめ上げた姜氏に対しては、理知的なハト派との印象を抱いた人も多かっただろう。

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ところが、そんな姜氏には驚くべき横顔があった。次なるは、北朝鮮外交に精通したある脱北者から聞いた話だ。

「姜氏は3人兄弟で、他の2人も出世した。兄弟は子供の頃、朝鮮戦争中に住んでいた村が米韓側の支配下に入った。この時、地元の右派による白色テロによって両親を惨殺されている。 難を逃れた3兄弟は、復讐の機会をうかがっていた。そして、村が再び北朝鮮側の支配下に入るや、手斧や鎌を持って白色テロの主導者たちの家に侵入し、家族もろとも皆殺しにしたという。まさに、筋金入りの反米ナショナリストであり、北朝鮮からすれば『革命戦士』なのだ」

極悪性スキャンダル

しかし、第1次核危機のときには小学生ほどの年齢に過ぎなかった金正恩氏にとって、姜氏の実績はさほど重要なものではなかったのかもしれない。国家葬儀委員会に、本人が名を連ねなかったことが、そんな印象を抱かせる。

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一方、誰が葬儀委員長を務めるかといえば、抗日パルチザン2世の中でも札付き中の札付きと言われている崔龍海氏である。崔氏は、度重なる不正の発覚により、金正恩氏から厳しく叱責されてきた。1994年と2004年には革命化(思想教育)処分も受けている。

それだけでなく、権力を盾にして美貌の芸能関係の女性を性の玩具にするなどの醜聞にもまみれており、そのことは一般国民や外国にも知られている。

たたき上げの実力派で、金正日氏を輔弼(ほひつ)し続けた姜氏とは大違いだが、過去の「英雄」より現在のイエスマンを重用するのが、正恩氏のスタイルらしい。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記