金正恩氏に「指名手配」された脱北美女たちの運命

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北朝鮮当局はやはり、4月の「北朝鮮レストラン従業員集団脱北事件」に、相当な衝撃を受けたようだ。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、国家安全保衛部(秘密警察)は、従業員らに対する監督責任を問われることをおそれ、金正恩氏に「中国のブローカーと結託した南朝鮮情報機関の誘引拉致劇だ」との報告を上げた。

それに腹を立てた金正恩氏は保衛部に対し「君たちの本分は一体何かね」と叱責した上で「南朝鮮(韓国)当局に13人の即時送還を要求し、応じない場合には1000倍の復讐を加えろ」との指示を下したという。

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保衛部はこれを受け、史上最大規模の拉致工作チームを海外に派遣したとされている。

一方、在米韓国人が運営するニュースサイト・民族通信は、脱北した女性従業員12人の名前と年齢、顔写真を公開した。同通信は思い切り北朝鮮寄りの論調で知られ、平壌に特派員も置いている。顔写真などの公開は、北朝鮮当局の意思によるものと見て間違いない。

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北朝鮮レストランの従業員たちは、もともと韓国人から好感をもたれており、中にはネット上でアイドル並みの人気を集めた女性もいる。

今回の写真公開に対してもそうした反応が見られるようだが、しかし女性ら本人たちにとっては、単純に喜べることではない。北朝鮮当局が、あくまで「脱北ではなく韓国側による拉致」を主張し、彼女らの奪還を目指している状況下では、写真公開は「指名手配」も同然の効果を持つからだ。

韓国国内には、北朝鮮の指令を受けて行動する工作員が現在も潜伏している。過去には偽装脱北し、北朝鮮の民主化運動を行うリーダーらの暗殺を狙っていた武闘派工作員が摘発された例もある。捕まった工作員は、毒針などの暗殺武器を所持していたとされる。

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もっとも、北朝鮮が彼女らを「被害者」と主張している限り、命を狙われることはないと思われる。だが、韓国国内で北朝鮮の意を受けて動くのは、破壊工作員だけではない。人権派を装って彼女らに接近し、国に残った家族らの窮状を伝え、自発的な帰国を促す「説得工作」が行われる可能性もある。

いずれにせよ、エリート家庭出身とされる彼女らの脱北を認めることは、金正恩体制にとって相当な痛手になりかねない。それだけに今後しばらくの間、北朝鮮は彼女らへの接触をあきらめようとしないだろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記