北朝鮮が、自国の犯罪者を労働力として西アフリカの赤道ギニアに輸出、いわば「島流し」をしているとの疑惑が浮上している。
疑惑を報じたのは、スペインのバレンシアに本部を置く赤道ギニア系のインターネットニュースサイト「ロンべ・ディアリオ」。
同サイトは、赤道ギニアの首都マラボ近郊の犯罪都市、サンティアゴ・デ・バネイとレボラの間にある農場に北朝鮮から労働者が派遣されていると伝える。疑惑のある施設の衛星写真を見る限り、何の変哲もないように見えるが、中にいる関係者に話しかけようとすると、逃げていく。その後、施設警備員がやって来て「話しかけるな。写真も撮るな」と警告される。
この施設で、北朝鮮から送り込まれた数百人の犯罪者が収容され、強制労働に従事させられているというのだ。にわかに信じがたい話だが、北朝鮮で、拘禁者に強制労働を科すのは、国際問題になるほど、広く知られている。
国内では政治犯に「被ばく強制労働」も
また、政治犯が「被ばく強制労働」まで強いられているというレポートさえある。北朝鮮当局が、遠いアフリカの地でも自国民の人権を侵害しているとするなら、見過ごせない問題だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面彼らの犯歴は、軽犯罪から政治犯罪に至るまで罪状は様々で、赤道ギニアで働くことを条件に刑期が5年から10年短縮される。強制労働を強いているのが、赤道ギニアなのか、それとも北朝鮮なのかは不明だ。
北朝鮮の拘禁施設、とりわけ政治犯収容所の劣悪な実態と人権侵害は、筆舌に尽くしがたいものがある。どれほど劣悪な環境であろうと、生きる望みがあるかもしれない赤道ギニアでの強制労働を選ぶのは、わからないでもない。
(参考記事:赤ん坊は犬のエサに投げ込まれた…北朝鮮「政治犯収容所」の実態)逃げ出せない離島で拷問も
赤道ギニア政府は、北朝鮮政府との協定に基づき、土地を貸し出しているが、同国政府は、協定の存在を否定している。国際問題になることを警戒して否定しているようだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面施設の衛生状態は非常に悪く、収監者にはまともな食事が与えられていない。さらに、赤道ギニアの軍人の監視を受け、拷問を加えられることもあるという。また、施設は、大西洋に浮かぶビオコ島にあり、アフリカ本土から32キロ離れている。逃げ出すのも困難だ。
当該施設で北朝鮮人が働かされていることは「公然の秘密」だと同サイトは伝える。記事を引用して報じたコンゴ民主共和国(旧ザイール)の「ル・ポタンシエル」紙は、同様の施設はサンパカとリャバにも存在していると付け加えた。また、北朝鮮企業は赤道ギニアで、富裕層向けの住宅、兵営、競技場の建設工事を請け負っている。
赤道ギニアは、産油国で財政的には非常に豊かなものの、富が国民に還元されず貧しいままだ。独裁体制が敷かれており、腐敗認識指数では世界最下位を記録するなど、エリトリアと並んで「アフリカの北朝鮮」と称されている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮とも長年友好関係を築いている。李スヨン元外相も、昨年、アフリカ歴訪の初の訪問地として同国を選んだほどだ。
赤道ギニアには、北朝鮮企業の進出も進んでいる。「朝鮮コンピュータセンター(KCC)」は、数年前から首都マラボに進出。2015年には、大統領の官邸、私邸、公用車などの映像監視セキュリティシステムの導入契約を結んだ。北朝鮮に近い情報筋によると、契約額は30億ドル(約3253億円)だ。
この問題については、フランス国営ラジオ(RFI)やラジオ・フリー・アジア(RFA)も、ル・ポタンシエル紙を引用する形で北朝鮮の「犯罪者輸出」について報じていることから、国際社会で問題として取り上げられるのは時間の問題だ。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。