ヤクザと在日と北朝鮮…「権力と経済ヤクザ」の実像

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私の知る限り、在日韓国・朝鮮人のヤクザというのは、総数としては必ずしも多くない。しかし一昨日の本欄では、日本の総人口に占める在日韓国・朝鮮人の比率に対し「親分にまで上り詰めた在日ヤクザの比率」は明らかに高い、ということに触れた。

在日韓国人ジャーナリストの李策氏によれば、在日ヤクザは愚連隊の明友会や、「殺しの軍団」と呼ばれた柳川組のように図抜けた暴力性のイメージが強いが、実際には、出世した親分たちの中には「経済ヤクザ」が多いのだという。

(参考記事:「ヤクザと在日」の語られざる真実…武闘派の隆盛とバブル紳士の台頭

私の関心の対象は、実はヤクザそのものではない。社会が大きく変化するときに生じる、「オモテ社会」と「ウラ社会」の関係性の変化だ。

現在の日本のような成熟した社会においては、ヤクザのようなアウトローたちの居場所は極端に狭まっているように見える。暴力団対策法や暴排条例の内容の一部には、「人権侵害ではないか」と思えるものすらある。

しかし、かつては日本の主流社会も、ヤクザの役割に期待したものがあった。李氏によれば、不動産価格が暴騰していたバブル期には、銀行のグループ会社や上場デベロッパーが、「スピード=腕力」に定評のあるヤクザ組織に地上げを頼ったという。

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似たような現象は、北朝鮮にも見られる。慢性的なモノ不足のために、国家が計画した経済政策は上手く回らない。そこでは、密輸などの裏ビジネスが潤滑油の役割を果たし、それを仕切るアウトローたちの存在感も大きくなる。私はそのことを、韓国に逃れた北朝鮮ヤクザから直接教えられた。

(参考記事:【実録 北朝鮮ヤクザの世界(下)】社会主義国で「経済ヤクザ」が誕生するまで

しかし権力というものは、社会秩序が安定してくると、脱法行為を生業とするアウトローを疎んじ、切り捨てるもののようだ。それは、北朝鮮も日本も同じだ。これは良いも悪いもなく、そういうものなのだ。

ちなみに、日韓国交正常化の立役者で、安倍晋三首相の祖父である岸信介元首相と、伝説的な在日ヤクザの町井久之(鄭建永)氏が近い関係にあったというのはよく知られた話だ。

(参考記事:【日韓国交50年】岸信介から安倍晋三まで…首相一族の「在日人脈」と「金脈」

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現在ならば、ちょっと考えられないことだ。

ともかく、現在の北朝鮮社会には部分的ながら、数十年前の日本と似た現実があるということだ。願わくば1日も早くその段階を脱し、国民生活が安定することを願いたい。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

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