北朝鮮、労働党大会前の「肥料集め」に四苦八苦

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36年ぶりの朝鮮労働党第7回大会を控えて、北朝鮮では「70日戦闘」という大増産運動が展開されている。大きな成果を出してから、労働党大会を成功させようという北朝鮮恒例の筋書きだ。また、こういう運動を通じて、住民を統制する狙いもある。党大会のみならず、北朝鮮のイベントは住民にとっても負担が大きく不満が出やすいからだ。

北朝鮮庶民からすれば、面倒きわまりない。普段の生活も苦しいなか、大会のための運動や奉仕活動に時間を奪われ、市場で商売する時間が減るからだ。

こうした事情は、庶民だけでなく、企業所といわれる会社も同じだ。

正月から「人糞集め」

北朝鮮の労働新聞は今月20日「南興肥料工場(青年化学連合企業所)が、『70日戦闘』が始まって以降、1日平均640トンの肥料を生産し、目標を440トンも上回った」と伝えた。毎日の稼働なら23万3000トンになる。

しかし、なぜか北朝鮮当局は、各貿易会社に中国からの肥料輸入のノルマを課しながら肥料の確保に乗り出した。つまり、北朝鮮で1年間に必要な150万トンの肥料が確保できていないことを示している。

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また、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、北朝鮮の貿易省は最近、すべての貿易会社に対して、今年の農業に必要な資材と肥料を、「70日戦闘」の期間中に輸入することを命じた。

同省は、具体的な要求量を提示する代わりに、輸入量ランキングを発表し、競争を煽っている。ランキングで下位の貿易会社には「貿易許可証を更新しない」と暗に脅しをかけているのだ。

突然の命令とあまりにも厳しい納期。各貿易会社は大騒ぎだ。担当者は、急遽中国に向かい、貿易業者に「肥料を確保してくれ」と頼み込む、または中国に親戚がいる人を通じて取り寄せたりしている。

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中国は世界一の肥料生産能力を誇る。とはいえ、これほど急な要求には対応しきれない。そのせいか、北朝鮮の貿易会社がかき集めた肥料の中には、質の低いものも混じっており、受け取った農場員からは「こんなものは使えない」と不満の声が続出している。

韓国統計庁の統計によると、北朝鮮の肥料製造能力は年間224万9000トンで、年間の国内需要を満たしてもなお余りあるほどだが、2014年の実際の生産量は50万1000トンに過ぎない。電力や原料の不足で、肥料工場がフル稼働できないからだ。

それを裏付けるように、近年減少傾向にあった中国からの肥料輸入量が今年に入って急増している。米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)によると、北朝鮮は今年2月、中国から肥料を7万9000トンも輸入した。これは昨年同月比の84倍に達し、2015年の輸入総量7万1000トンをわずか1ヶ月で超えた計算になる。

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情報筋によると、肥料のみならず、稲やトウモロコシの苗床を覆うビニール幕も大量に不足しており、金正恩体制の無計画ぶりが、北朝鮮の穀物生産に暗い影を落としている。

企業体が肥料集めに奔走する一方で、北朝鮮の住民たちは、年初に「堆肥戦闘」と称される「人糞集め」のノルマを課せられる。住民たちは、ノルマを達成するため、新年早々人糞を求めてさまよい歩かなければならない。さらに、苦労して集めた人糞を盗もうとする「人糞泥棒」から守るため、酷寒の中で24時間警備しなければならない。

金正恩第1書記は、朝鮮労働党第7回大会を通じて、自らの権威を高めようとしているが、そのしわ寄せは企業だけでなく、庶民にも及んでいるのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記