北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は1日、「夫永旭(プ・ヨンウク)総連大阪府本部委員長を団長とする、朝鮮労働党第7回大会慶祝・在日本朝鮮人祝賀団が4月30日、平壌に到着した」と、一行6人の写真を添えて報じた。
祝賀団は夫氏のほか、愛知・神奈川・兵庫の各県本部の幹部らと、中央本部の中堅幹部らで構成されている。その中には朝鮮総連のトップ、許宗萬(ホ・ジョンマン)議長の長男である許明道(ホ・ミョンド)組織局副局長も含まれている。
「私を批判せよ」と極秘指令
日本政府は、北朝鮮の核実験と長距離弾道ミサイル発射に対する独自制裁として、朝鮮総連の最高幹部ら22人に対し、訪朝した場合の再入国を原則禁止としている。今回の6人は、ここに含まれていない。しかし日本政府が「制裁破り」とみなせば、再入国が認められない可能性もある。
6人は家族も生活基盤もすべて日本にあるのに、帰ってこられなくなるかもしれないのだ。
しかし、それほどのリスクを冒して訪朝しても、金正恩第1書記との「謁見」はかなわないだろう。何しろ、朝鮮総連はトップの許議長でさえ、最高指導者に就任後の金正恩氏とは会えていないのだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面そうかと思えば、正恩氏と3時間にわたって食事を共にし、日朝関係やミサイル問題などについて話し合った日本人がいる。「金正日の料理人」として知られる藤本健二氏だ。毎日新聞によると、正恩氏は藤本氏に対し、「戦争する気はない。外交の人間がアメリカに近づくと無理難題を突き付けてくる。むかっとしてミサイルを発射している」と語ったという。
こんな話を金正恩氏から直接聞き、メディアに披露できる人物は、いまの朝鮮総連にはひとりもいないのではないか。
そうなってしまった理由は日本からの送金能力の低下、日本人拉致問題の影響などいくつかあるが、朝鮮総連が日本社会からの信頼を失ってしまったことが大きいと言える。かつて故金正日総書記は朝鮮総連に対し、「たまには私を批判しても良いから、日本社会の信頼をつなぎとめろ」という趣旨の極秘指令を出したことがあった。しかし、本国追従一辺倒しか知らない老幹部たちが従わなかったために、撤回されたと言われている。
公安のスパイ獲得工作
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面いずれにせよ、朝鮮総連は北朝鮮からも信頼を失ってしまったということだが、日本には、これを喜んでばかりはいられない組織がある。公安当局である。
公安当局は長らく、北朝鮮とつながる情報ラインを求めて、朝鮮総連内部にスパイを獲得する工作活動に注力しており、それはいまも続いている。
(参考記事:【対北情報戦の内幕】朝鮮総連を震撼させた公安当局の「セセデ」獲得工作)しかし果たして、現在の朝鮮総連にそれだけの価値があるのだろうか。北朝鮮の核兵器の脅威がいっそう増してきているいま、北朝鮮の友好国情報など、もっと価値の高そうな調査対象に力を振り向けるべきではないだろうか。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。