そんな北朝鮮の情勢観を垣間見せる、ひとつの文章がある。朝鮮中央通信が今月の初めに配信した、朝鮮国際政治問題研究所論評員の寄稿文だ。「現世界政治秩序は不公正である」とする内容だが、名指しを避けつつも、異例の厳しさで長年の友邦・中国に対する批判を展開している。
一部を引用してみよう。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「こんにちの世界政治舞台は不義と強権、覇権と専横、侵略と支配がはびこり、国際関係の最も初歩的な原理・原則まで無視される強大国中心の暴力的乱舞場に変わった」
「最近、わが共和国を巡って激突する情勢の流れは極度に不公正で、日を追って堕落していく世界政治の縮図であり、最も明白な証明となる。今、米国とその追随勢力はわれわれを国際社会で許せない存在、「悪の根源」に描写し、史上類例のない経済制裁と軍事的圧迫を加えている。」
「問題は、体面と名分をそんなにも重視するという一部の大国まで米国の卑劣な強迫と要求に屈従し、はては三文の値打ちもない親米娼婦の鼻持ちならぬスカート旋風に相づちを打つ想像外の汚らわしい事態が公然と起きていることである。 血でもって成し遂げた共同の獲得物である貴重な友誼関係もためらうことなく投げ捨て、この国、あの国と密室結託してつくり上げたいわゆる結果物で正義と真理を踏みにじろうとする惨憺(たん)たる現実の前で、われわれは世界政治の虚像と真実を再度明白に見抜くことになる。」
何とも悲壮感ただよう文章ではないか。
言うまでもなく、北朝鮮をそのような状況に追い込んだのは、金正恩氏の暴走に他ならない。しかし彼に言わせれば、自分は被害者であり、かつ「巨悪」に立ち向かう悲劇の英雄でもあるのだ。
筆者は、そのような被害妄想的な主張に耳を傾けようと言いたいわけではない。そうではなく、国際的孤立が金正恩氏のヒロイズムの「糧」となり、暴走にいっそう拍車がかかる危険性をわれわれは認識しておくべきではないだろうか。
(参考記事:中国にしつこくケンカを売る金正恩氏の「危険思想」の正体)高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。