国連の会議に出席するためニューヨークを訪問した北朝鮮のリ・スヨン外相は23日、AP通信のインタビューに応じ、米韓合同軍事演習が中止されれば、北朝鮮は核実験などの挑発行為を中止する用意があるとの考えを示した。
これに対し、ドイツを訪問中のオバマ大統領は24日、メルケル首相との会談後の共同記者会見で、「北朝鮮が朝鮮半島の非核化に対し真剣な態度を示すなら、われわれも緊張緩和に向けた真剣な対話に乗り出す準備がある」としながらも、演習を中止する計画はないとして、リ外相の提案を一蹴した。
北朝鮮は今、5回目の核実験に向け最終準備段階にあるとされている。
その状況下でのリ外相の発言を、どう読むか。筆者ならば、北朝鮮が新たな核実験後、米国に対し「われわれの歩み寄りを蹴った」との非難を浴びせるための「逆ギレ」の伏線を引いたのだと見る。
一方、オバマ氏は対話の条件として「北朝鮮が非核化に対し真剣な態度を示す」ことを挙げている。北朝鮮は、金正恩第1書記が3月に「核実験と核弾頭装着可能な弾道ミサイルの発射実験を早いうちに断行する」と述べて以来、それに沿った動きを着々と進めている。オバマ氏が提示した条件から、遥か遠い所にいるわけだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面オバマ氏はこれまでにも、たとえば米韓共同声明で同様の提案を行っている。しかし、そこでは北朝鮮の人権侵害追及にも言及されており、金正恩氏にとってはむしろ「死刑宣告」に等しいものだった。彼の「核の暴走」は、そうした状況から生まれているとも言える。
(参考記事:金正恩氏に「死刑宣告」した米韓首脳会談)結論を述べるなら、人権問題に言及しないままの米朝間の「対話うんぬん」のやり取りなど、あまり意味がないのだ。金正恩氏は、国連の場で「人道に対する罪」に問われる可能性が提起されており、本当にそうなれば、ヒトラーなどと同列の虐殺者として扱われることになる。
そんな人物と、オバマ氏は握手することができるのだろうか? オバマ氏どころか、ドナルド・トランプ氏が大統領になったところで無理ではないだろうか。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。