情報筋によると、4月15日の夜、2家族の計7人が忽然と姿を消してしまった。ここまでなら、とりたて珍しい話ではないが、問題は、脱北した日が4月15日、すなわち北朝鮮で民族最大の祝日とされている故金日成主席の生誕記念日「太陽節」に事件が起きたことだった。
北朝鮮当局は、この日の前後は特別警戒週間として、国境警備隊、人民保安署(警察)、保衛部に加えて、民間団体まで動員しながら、三重四重の厳戒態勢を敷いていた。それにもかかわらず、みすみすと脱北を許してしまったというわけだ。
「偉大なる首領様」の記念日に起こった集団脱北事件によって、金正恩第1書記、そして保衛部のメンツは丸つぶれだ。なぜなら、金正恩氏は国民の脱北防止を厳命しており、それを担っているのが保衛部だからだ。ちなみに保衛部は、脱北防止だけでなく、数々の大物幹部を粛清・処刑に追いこんだ金正恩式恐怖政治の実行部隊でもある。法的手続きなしの逮捕権を持ち、政治犯収容所に入れたり、死刑に処することができるなど強力な権限を持つ。
(参考記事:北朝鮮軍「処刑幹部」連行の生々しい場面)(参考記事:赤ん坊は犬のエサに投げ込まれた…北朝鮮「人権侵害」の実態)
保衛部は、これまでも最高指導者のスキャンダルを描いた韓流ドラマを密売した罪や、脱北を幇助した国境警備隊隊員、一般住民を政治犯収容所に収監したり、処刑してきた。今回も、「脱北すれば『三代滅族』(三世代を皆殺し)にする」という、恐ろしい内容の講演を行いながら、住民たちの脱北を防ごうと躍起になっている。まさに、恐怖政治の実行部隊であり、金正恩氏の処刑部隊とも呼べる存在なのだ。
(参考記事:銃殺の悲劇も…北朝鮮「喜び組」スキャンダル)(参考記事:北朝鮮の「公開処刑」はこうして行われる)
それだけに、もしかすると北朝鮮の大衆は、日頃から権勢を振るう保衛部と金正恩氏のメンツを無慈悲に粉砕した脱北者たちに拍手を送っているかもしれない。