北朝鮮レストラン「美貌のウェイトレス」が暴く金正恩体制の脆さ

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今月8日、韓国政府によって、北朝鮮レストラン従業員13人が「集団脱北」したことが明かされた。一度に13人が脱北したのも異例だが、脱北から韓国入りまでスピーディーに動いた裏には、韓国政府の意図が強く働いていたようだ。すなわち、核とミサイルで暴走する金正恩氏に対するプレッシャーと、総選挙を与党が有利に戦うため、対北朝鮮経済制裁の実効性をアピールすることだ。

その5日後に、投開票が行われた韓国総選挙では、朴槿恵(パク・クネ)大統領を支える与党が惨敗したため、「集団脱北」の公表は、必ずしも成功したとはいえないが、金正恩体制の脆弱さを浮き彫りにしたことはまちがいない。

なぜなら、本来、北朝鮮レストランで働くウェイトレスたちは、脱北しないという前提で、海外に派遣されているからだ。

韓国人や一部の日本人の北朝鮮マニアの間で人気をよぶ北朝鮮レストランの美貌のウェイトレスらの多くは良家の出身だ。北朝鮮当局は、脱北しない、すなわち「北朝鮮を裏切らない」と判断した女性のみ派遣しているはずだが、彼女たちはリスク覚悟で、北朝鮮ではなく韓国で生きることを選んだ。

今回の集団脱北に、韓国の情報機関がなんらかの形で関与していたとしても、13人が最終的に脱北を決断した裏には、金正恩体制に対して多かれ少なかれ、不満を持ち、北朝鮮に展望がないことを知ったからだろう。

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そもそも、北朝鮮ウェイトレスの脱北は、これまでもたびたび起きている。監視下に置かれ、厳しい労働環境で働かされているとはいえ、一度中国で海外の空気と自由を知ってしまえば、国家への忠誠心など一挙に吹き飛んでしまうのかもしれない。

そんな彼女たちに裏切られた金正恩第1書記は、相当焦りを感じているようだ。デイリーNKの内部情報筋によると、国家安全保衛部(保衛部=秘密警察)が、海外派遣に関係する党幹部に対する統制を強めているという。

軍の幹部さえも無慈悲に粛清する「金正恩式恐怖政治」の手となり足となり暗躍している保衛部は、海外に派遣されている人員に対して、新たな監査グループを派遣。保衛部の統制強化に、北朝鮮の幹部たちは戦々恐々としているという。

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しかし、そもそも今回の「集団脱北事件」は、金正恩氏が、核とミサイルや体制維持に必要な外貨稼ぎを良家の女性たちに押しつけ、厳しい労働環境とノルマで苦しめたことが原因だ。言い方を変えれば、暴走を続ける金正恩氏にウェイトレスがささやかな復讐を果たしたといったところだろうか。では、彼女たちは、どのようにして海外に派遣されるのか。そして時には「望まぬ仕事」さえも強制されている実態について、次回は報告したい。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記