北朝鮮「ビラ爆弾」の恐怖…南北宣伝戦がエスカレート

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朝鮮半島の南北間で緊張が高まるにつれ、双方の宣伝戦、とりわけ「ビラ戦争」がエスカレートしている。

韓国の聯合ニュースによると、ソウルで北朝鮮から来たものと思われる宣伝用のビラが大量にばらまかれているのが発見され、警察が捜査に乗り出した。発見された場所はソウル市内東大門区。31日の午前0時頃、区内の住宅街に北朝鮮を賛美し、韓国や朴槿恵大統領、米国を非難するビラ8000枚とCD19枚がばらまかれているのが発見された。同時にビラが詰められていたと見られる風船も発見された。

人的、物的被害はなかったが、今月に入ってから、韓国の各地で数千枚から1万枚の北朝鮮製と思われるビラが相次いで発見された。現在までに散布された数は700万枚に達すると見られており、運搬手段はドローンであると見られている。自動車を粉砕したり、共同住宅の屋上の水道タンクを無慈悲に破壊するなど、単なるビラ配布というより「ビラ爆弾」の体をなしている。

今のところ、大きな被害は発生していないが、気になるのはドローンの使われ方だ。もしかしたら北朝鮮は、ドローンで韓国領内にモノを落とす訓練をしているかもしれない。そして、さすがに核爆弾や本格的な爆弾を運ぶことは無理にしても、北朝鮮がドローンを利用して、なんらかの小型兵器を韓国社会に運ぶことを想定していてもおかしくはない。

一方、韓国政府も、北朝鮮の核実験、長距離弾道ミサイルの発射実験に対する報復措置として、対北朝鮮拡声器放送を再開するなど、宣伝攻勢を強めている。

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韓国の対北朝鮮拡声器放送は、昨年8月、地雷爆発に端を発した南北対立をきっかけに11年ぶりに再開された。たかが放送、と思われるかもしれないが、その後の南北会談で、北朝鮮側は対北朝鮮放送を止めるよう強く要求。粘りに粘って合意を取り付けた経緯から、北朝鮮を最もナーバスにさせる心理戦手段であることがうかがえる。

さらに、韓国では脱北者団体や対北朝鮮NGOが対北朝鮮ビラを風船で飛ばすなど、民間までが「参戦」している。NGOのビラ18万枚は風船によって北朝鮮側に飛ばされた。北朝鮮の体制批判からはじまって、核実験、ミサイル発射などを非難する内容だが、ビラを飛ばす活動を行っている自由北韓運動連合のパク・サンハク代表は「5月までに1000万枚を飛ばす」と語った。

南北両政府の軍事演習や舌戦に加え、民間も交えた宣伝戦まで激化する状況は、収まる気配を見せていない。そして、現在の対立状況が危険水域を越えた時、金正恩氏が思わぬ軍事行動に出ないとは誰も言い切れない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記