金正恩氏の「連続攻撃」がイマイチ迫力に欠ける理由

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北朝鮮が先月31日午後から、南北軍事境界線北側の複数の場所から全地球測位システム(GPS)を混乱させる妨害電波を発している。現在のところ、韓国側に大きな被害は生じていないが、多数の船舶でナビ操作に支障が出ており、惨事につながる可能性はゼロではない。

もっとも、一昔前と比べると、北朝鮮の挑発行動には緊迫感が欠けているようにも思える。最近、北朝鮮が韓国に対して仕掛けた挑発行動は、GPS妨害のほかは「朴槿恵大統領に対する悪口」「ドローンを使ったビラ爆撃」「韓国要人に対するサイバー空間でのハニートラップ」などだ。

朴槿恵氏は相当に気分を害されただろうし、北朝鮮のドローンに自動車や貯水タンクをぶっ壊された韓国国民は気の毒だが、サイバー攻撃も含め、よほど運が悪くなければ人命被害が出る類のものではない。

もちろん、それ自体は結構なことなのだが、気になるのは北朝鮮の内情だ。6年前、北朝鮮は韓国軍の哨戒艦を撃沈し、同じ年に韓国領の延坪島も砲撃した。ひとつ間違えれば全面戦争にもなりかねない危険な挑発行動だ。暴挙には違いないが、あまりの大胆さに世界が戦慄させられたのもまた事実だ。

では、今回はなぜ、レベルの低い挑発にとどまっているのか。理由は様々あろうが、そのうちのひとつに「人材難」があるのではないかと、筆者は考えている。

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哨戒艦撃沈と延坪島砲撃を指揮したのは金正恩氏が軍事学の師と仰いだとも言われる金格植(キム・ギョクシク)将軍だが、昨年5月に死去している。その際の正恩氏の礼遇ぶりは異例のものだった。

しかし今や、金格植将軍のような大物軍人が、北朝鮮にはちょっと見当たらなくなった。そもそも朝鮮人民軍は抗日パルチザンをはじめ、ベトナムや中東の戦場で実戦経験を積んだ「老将」たちが君臨してきた。しかし時代の流れとともに、その多くが鬼籍に入っている。

(参考記事:第4次中東戦争が勃発、北朝鮮空軍とイスラエルF4戦闘機の死闘

また、正恩氏による粛清の嵐の中で、戦闘指揮官のトップが相次いで処刑されたことから、実戦派の軍人たちの間には不満がうっ積しているとの情報もある。

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こうした条件が重なり、正恩氏が戦争をしたくても出来ない状況ならば、それに越したことはない。それでも、彼は何ら中の「はけ口」を求めることは止めないのではないか。正恩氏の暴走は、放っておけば自然と終わる類のものではないと考えるべきだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

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