金正恩氏が主張する「70日戦闘」の悲惨な実態…建設現場で事故多発

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北朝鮮では、5月に開催予定されている36年ぶりの第7次朝鮮労働党大会を前に、大増産運動「70日戦闘」が繰り広げられている。朝鮮労働党の機関誌「労働新聞」は、70日戦闘の目標を早期達成したという事例と報告を喧伝しているが、大抵こうした報告は虚偽報告や水増し報告のオンパレードで、後々弊害が出て来るという北朝鮮お馴染みの「悪習」となっている。

70日戦闘などの大増産運動が始まれば、各地方には様々な無理なノルマが与えられ、住民たちは無償の奉仕運動に強制動員される。大規模な建設現場では、労働者達がより劣悪な環境で労働を強いられることになる。

例えば、炭鉱や工事場では、マスク、手袋など基本的な安全装具はなく、建設装備や資材不足によって原始的な肉体労働に依存せざるをえない。金正恩氏鳴り物入りで進められている「白頭山英雄青年発電所」の現場でさえも、たいまつをつけて凍った土を割り、採取した砂錫(錫の原料)を麻袋に入れて担ぎ、滑りやすい坂を休まずに走りっぱなしで運ばなければならない。こうした劣悪な労働環境では、労災事故が起きることは避けられない。

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案の定というべきか、北朝鮮の両江道(リャンガンド)で進められている白頭山観光鉄道(三池淵線)の工事現場で土砂崩れが発生、労働者が死亡するという悲惨な事故が発生した。

事故が起きたのは鯉明水(リミョンス)駅周辺。線路を通すために土を切り崩す作業を行っていたところ、雪解けで柔らかくなっていた地盤が崩れ土砂崩れが起きた。事故に巻き込まれた突撃隊(建設支援部隊)の隊員10数人が死亡した。この鉄道建設現場では、去年12月にも土砂崩れで労働者13人が死亡するなど、労災死亡事故が後を絶たない。

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今年1月末には、体調不良にもかかわらず、ノルマ達成のために、長時間労働を強いられた労働者が、足を滑らせて、深さ500メートルの立坑に転落して死亡した。また、白岩(ペガム)郡の林産事業所では、氷点下30度の極寒で労働を強いられ、足に凍傷を負う事故が発生した。

もちろん、こうした事故に対して、北朝鮮当局は一切の補償を行わない。そもそも、発破により周囲の民家が吹き飛んだり、資材運搬用のトラックが転覆し多数の死傷者が出ても、一切補償しない。

労災事故に対して何の措置も取らず「知らぬ存ぜぬ」の態度を取り続けてきた両江道当局だが、党大会を前にして労働者や住民の不満がこれ以上高まるのを恐れ、今回ばかりは道の幹部が出席しての葬式を執り行ったという。しかし、それだけで不満が抑えられるのかは不明だ。

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北朝鮮は、まがりなりにも労働者が国家の主人である社会主義体制を標榜している。しかし、国家行事という大義名分の下、多くの労働者が負傷し、命を落とす。そして、まともな保障は受けられないなど、資本主義以上に、労働者を搾取・抑圧している。こうした国家ぐるみの人権侵害のうえに成り立っているのが、金正恩体制なのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記