昨年12月、対南工作や南北対話業務を行う金養建(キム・ヤンゴン)朝鮮労働党統一戦線部部長が交通事故で死去したことに伴い、後任として任命された金英哲(キム・ヨンチョル)氏が、元の役職である偵察総局長も兼務しているのではないかという見方が浮上した。韓国の聯合ニュースが31日、北朝鮮事情に精通した消息筋の話として報じた。
金英哲氏は、2010年の天安艦撃沈、そして同年の延坪島砲撃事件を主導した「強硬派」と知られている。
デイリーNKはその横顔について、北朝鮮の人民武力省で対外事業局副部長を務め、金英哲氏を身近から見たという脱北者同志のチェ・ジュファル会長(元朝鮮人民軍上佐)から話を聞いている。
チェ氏によると、金英哲氏は非常に聡明で、一度何らかの目標を定めたら、いかなる手段と方法を使ってでも必ず達成する性格だったという。
朝鮮人民軍は抗日パルチザンをはじめ、ベトナムや中東の戦場で実戦経験を積んだ「老将」たちが君臨してきた。しかし時代の流れとともに、その多くが鬼籍に入っている。
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替わって台頭したのが、黄炳瑞氏ら党官僚から軍総政治局に乗りこんだ「政治軍人」たちなのだが、その中にあって、天安撃沈や延坪島砲撃に関わったとされる金英哲氏はやや異彩を放っているとも言える。
聯合ニュースは、北朝鮮が軍事挑発や韓国への非難をエスカレートさせているのも、金英哲氏が統一戦線部長と対南担当書記に加えて、偵察総局長まで兼務しているからだという見方も伝えている。
兼務説について、真偽のほどを見極めるには時間がかかるかもしれないが、同氏の動向には注視が必要だろう。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。