北朝鮮が、中国を「裏切り者」と非難する「内部文書」が明らかにされた。関西大学の李英和教授は、朝鮮労働党の中央委員会が今月10日に各地方を総括する道党委員会に送った方針指示文を公開。このなかでは、朝鮮労働党中央委員会が中国に対して露骨に反発を示していることが記されている。
中朝関係の亀裂を招いたのは、北朝鮮の核とミサイルだ。中国は、一貫して北朝鮮の核とミサイルを容認しない姿勢を示しているが、金正恩第一書記は2012年末の長距離弾道ミサイルの発射実験と2013年の核実験、そして今年2016年と、最高指導者になってからの5年間で二度も「核実験とミサイル発射」を強行した。こうした金正恩氏の強硬姿勢に対して、中国も国連の対北朝鮮制裁に賛同。少なくとも現時点では歩調を合わせている。
そして、今度は北朝鮮が、中国の制裁に対して報復を始めたかのような動きが見せているのは、本欄でも指摘したとおり。今回の内部文書は、その見方を改めて裏付けるものだ。
李教授は、この内部文書について「北朝鮮は、今回の指示文で中国を日米韓同盟と同じく、敵国扱いすることを宣言した形だ」と指摘。さらに「『核暴風』という表現を使うなど、核やミサイルで中国を脅かし始めた」と解説する。確かに、内部文書の次の件からは、北朝鮮の中国に対する本音が見えてくる。
わが革命の苦難の歴史を振り返ると、中国はわが革命が試練と難関にぶち当たっても、一度たりとて真心を示したことがない。 偉大なる首領様方(金日成氏、金正日氏)が遺訓でお示しになったように、われわれは中国に対してこれっぽっちの幻想も抱いてはならない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮が核実験と長距離弾道ミサイルの発射実験をする度に、よく言われるのが「米国との対話を引き出すための強硬姿勢」だが、筆者は以前から「今回の核とミサイルのターゲットは中国だ」と指摘していた。友人として手を差し伸べるふりをしながらも、決定的な局面では、冷たい態度を取る中国に対する反発があると見ていたが、内部文書は、まさにそれを示している。
北朝鮮の公式メディアからは、中国への反発は節々から感じられるものの、あからさまには見せてはいない。しかし、この状態が長引けば長引くほど修復は難しくなり、金正恩氏が中国に対して振り上げた拳の落としどころをなくしていくだろう。それは、金正恩氏のさらなる暴走と迷走を招く結果になりかねない。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。